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» 2012年08月31日 16時40分 公開

ダイヤよりも硬く、羽毛よりも軽く――炭素が開く新材料材料技術(2/3 ページ)

[畑陽一郎,EE Times Japan]

どうやって作り出したのか

 研究チーム*4)はどのようにして新材料を作り出したのか。まず、サッカーボールに似たオリ状の構造をとるフラーレン分子C60と、有機溶媒であるm-キシレン(C8H10)を、分子数がほぼ1:1になるよう混合した。キシレンは日本国内でも数百万トン単位で生産されているごく一般的な化学物質だ。

*4) Lin Wang氏のチームには、Carnegie Institution for Scienceに属する研究員が他に4人いる。Wenge Yang氏、Zhenxian Liu氏、Stanislav Sinogeikin氏、Yue Meng氏である。

 次に徐々に混合物を加圧した。低圧ではC60の構造はそのまま残っていたが、圧力を高めるにつれてオリ状構造が壊れていき、アモルファス構造に変化していった。だが、単なるアモルファスではなく、C60がもともと占めていた位置で新しい格子状の構造をとった。つまり、広い範囲の周期性が残っている。

 研究チームが計算機シミュレーションで予想し、実験で確認したのは、ちょうど32万気圧(32GPa)前後の圧力を加えたときのみ、C60の構造が不可逆的に変化し、減圧しても元のオリ状構造には戻らなくなったことだ。つまり新しい構造は安定だということになる。

 新しい構造をとる炭素は、加圧に用いたダイヤモンドアンビル*5)に目に見える傷を付けた。つまりダイヤモンドよりも硬いことになる。

*5) 1組の小さなダイヤモンドからなる小型の装置。ダイヤモンドに挟まれた1mm四方程度の空間を最大300万気圧以上に圧縮できる。ダイヤモンドは「透明」であるため、加圧された状態の物質の様子を外部から観察でき、レーザーによる加熱や電圧の印加などもたやすい。

 さらに実験を重ねると、キシレンのような溶媒が新しい構造を維持するために必須であることも分かった。新材料が得られた後に熱処理でキシレンを除去すると、格子状の周期構造が失われてしまうからだ。キシレン以外にも似たような構造をとる有機溶媒は多い。溶媒を変えると、理論的には新構造がさらに異なる構造に変化する可能性もある。

 Wang氏によれば、これ以上圧縮できないという意味で、新材料はダイヤモンドに相当するという。加圧後に取り出しても構造が変化しないため、実用的なアプリケーションのためにも使いやすいとした。

発泡スチロールの1/75の重さ

 次は、非常に軽い材料を紹介する。

 ドイツKiel University(キール大学)とHamburg University of Technology(ハンブルク工科大学)の研究チームは極度に密度が低い炭素材料を開発した。密度が低いことから「エアログラファイト(Aerographite)」と呼ぶ(図2)。nmからμm規模のカーボンチューブからなる3次元多孔質が正体だ。発泡スチロールの75分の1の重さしかなく、1cm3当たりの重量はわずか0.18mg*6)にすぎない。にもかかわらず機械的な強度があるという。研究チームの論文はドイツAdvanced Materials誌の2012年7月3日号に掲載された。

*6) なお、同体積の発泡スチロールの重量は10〜30mg。空気は1.29mg、プロパンガスは2.02mgである。エアログラファイトは内部に空気を含むために空気中で浮遊することはない。

図2 エアログラファイトの顕微鏡像 エアログラファイトは白い線として写っている炭素チューブの網目構造から成り立っている。ほとんどの部分が空隙であることが見て取れる。透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した。右下のスケールは2μm。出典:ハンブルク工科大学

 エアログラファイトの見た目は闇のように漆黒だ。密度は低いが不透明である。硬さはなく、手でも引き延ばすことができる。電気伝導性も高い。

 ハンブルク工科大学に所属する博士課程の学生であり、論文の共同著者であるMatthias Mecklenburg氏によれば、エアログラファイトは類似する物質とは全く異なり、従来知られていた最も軽い固体材料の4分の1の重さしかないという。従来の最軽量材料はニッケル(Ni)系の物質であり、半年前に公開されたばかりである*7)

*7) 2011年11月にUniversity of California, IrvineとCalifornia Institute of Technologyの研究者が公開したもの。密度は0.9mg/cm3。発泡金属であり、タンポポの綿毛の上に載った写真で知られる。

 ニッケル材料は、微細な3次元状のチューブからできていた。エアログラファイトもやはり3次元状のチューブからなるが、ニッケル原子よりも炭素原子の方が「軽い」。キール大学の博士課程の学生であり、やはり論文の共同著者であるArnim Schuchard氏によれば、軽量化の秘密はチューブを多孔質壁で作ったことにあるという。キール大学のLorenz Kienle教授とAndriy Lotnyk博士が、透過型電子顕微鏡を利用して共同で材料の原子構造を分析、解釈した結果分かったことだ。

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