エアログラファイトの興味深い性質は密度が極端に低いのにもかかわらず、強度が高い点だ。一般に軽量な材料は圧縮には強いが、引っ張りには弱い。エアログラファイトは両方の性質を兼ね備えている。キール大学教授のRainer Adelung氏によれば、最大95%圧縮(元の体積の20分の1)されたとしても、損傷が生じず、元の形状に戻る。同氏によれば、ある一定量までは、力を加えるとより強度が高まる性質もあるのだという。通常の材料は力が加わると強度が減る。ハンブルク工科大学教授のKarl Schulte氏によれば、エアログラファイトは可視光線をほぼ完全に吸収するため、最も「黒い物体」でもある。
このような材料をどうやって製造するのだろうか。Adelung氏によればエアログラファイトはあたかも樹木に巻き付くツタのようなものだという。ツタが巻き付いた後に樹木を取り除くとエアログラファイトが残るという寸法だ。
キール大学のArnim Schuchardt氏とRainer Adelung氏、Yogendra Mishra氏、Sören Kaps氏はその“樹木”として、粉末状の酸化亜鉛(ZnO)を用いた。酸化亜鉛粉末を900℃まで加熱して結晶を作る。結晶とはいってもバルク結晶ではなく、μm〜nmオーダーの構造を持ち、護岸用の「テトラポッド」に似た構造をとるようにした(図3)。このテトラポッド構造が組み合わさって多孔質の材料となる。これが、エアログラファイトのテンプレートだ。
次に、テトラポッドの塊を760℃まで加熱し、CVD法で蒸着を施す。この作業はハンブルク工科大学で実行した。ハンブルク工科大学のSchulte氏によれば具体的な工程はこうなる。まず炭素を多く含むガス中に塊を置く。すると、酸化亜鉛の表面に炭素原子数層からなるグラファイト薄膜が形成される。これこそがエアログラファイトの網目構造そのものだ。
この操作とほぼ同時に水素を雰囲気中に導入する。水素は酸化亜鉛の酸素と反応して水蒸気となり、亜鉛はガス状になって取り除かれる*8)。こうして極細の炭素のチューブが3次元状に広がる構造を作り上げる。ハンブルク工科大学のMecklenburg氏によれば、亜鉛の除去速度を高めれば高めるほど、炭素で囲まれた「泡」の比率が高まり、材料の密度が下がる。つまり、軽くなる。キール大学のSchuchard氏によれば、製造時の調整によって、エアログラファイトの性質(密度)を変えられる点が重要なのだという。酸化亜鉛のテトラポッドの形状と、亜鉛の除去速度という2つの操作ポイントがあるということだ。
*8) 亜鉛の融点は419.5℃、沸点は907℃と低い。
エアログラファイトは何に役立つのだろうか(図4)。物性からすると、リチウムイオン二次電池の電極(負極)に使えそうだ。わずかな電解質を加えるだけで、非常に軽い電池を開発できる可能性がある。電池の軽量化は電気自動車(EV)やEバイクでは強く求められている。つまり、エアログラファイトは二酸化炭素(CO2)負荷の小さな交通機関の開発に役立つということだ。
他の用途もある。導電性物質、それも導電性を調整した新材料の開発だ。非導電性の通常のプラスチックにエアログラファイトを加えれば、重量を増やすことなく導電性を与えることができる。最も単純な用途は、乾燥した冬場に「パチッ」とならない、静電気レスのプラスチックだ。
これまでに開発された中で最も軽量であるという点を生かした用途も多いだろう。エアログラファイトが振動に耐えるという性質と組み合わせれば、航空宇宙分野で使える。難分解性の水質汚染物質の吸着剤としても機能する。エアログラファイトの体積当たりの表面積が非常に大きいことを利用する。吸着した汚染物質を酸化、分解することも可能だ。
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