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寿命「30億年」に「10年」が挑むパワー半導体 SiCデバイス(1/3 ページ)

次世代パワー半導体の旗手として脚光を浴びるSiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)。SiCパワー半導体を利用したシステム製品も登場しており、次は自動車への採用に期待が掛かる。だが、SiCにはまだまだ課題が残っていた。その1つが寿命だ。

» 2012年09月06日 10時00分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]

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寿命「30億年」に「10年」が挑む 天然のSiC結晶

 Si(シリコン)は半導体材料として優れた性質を持っている。しかし、モーターや電気自動車などの電力変換用に使う場合、性能の伸びしろが少なくなっている。これ以上の大幅な改善は難しい。

 そこで、SiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャプ半導体に注目が集まっている。これら半導体が備える優れた性質*1)を生かすと、モーターなどに必要不可欠なインバータを小型化し、損失を低減できる。発熱が少なく、高温に耐えるため、冷却システムの容量も少なくてすむ。つまり限られた電力を有効利用できることになる。

*1) これらの半導体は飽和速度(cm/s)が高く、Siの10倍以上の高周波動作が可能。絶縁破壊電界強度(V/cm)が高いため、Siよりもオン抵抗を下げても耐圧を維持できる。ジャンクション温度が250℃に達しても動作が可能だ。

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 SiCはGaNよりも、製品化の足取りがはっきりしている。既に2010年10月には三菱電機が自社のエアコン「霧ヶ峰ムーブアイ」の一部の機種にSiCショットキーバリアダイオード(SBD)を採用した。家電での最初の採用例である。

 同社は鉄道車両に開発中の1.7kV/1.2kAという大電力用途のモジュールを、2012年7月に開催されたTECHNO-FRONTIER 2012で展示した。8個のSiC SBDと4個のIGBTを組み合わせたものだ。ダイオードにSiCを採用するだけでも「インバータ部で損失を30%低減できる他、モーター部で同じく40%、『全速度電力回生ブレーキ』では機械的損失で失われていたエネルギーをほぼほぼ全て回生電力として回収できる。これら全ての効果を合わせると、SiC採用で鉄道車両として30%の省エネを実現できる見込みだ」(三菱電機)とした。開発品は一部の鉄道車両において実用化されている。

 汎用品の開発、製品化も進んでいる。例えばロームは2012年3月に、SiC SBDとSiC MOSFETを内蔵した1200V、100Aの箱形モジュールの量産を開始、2012年6月にはSiC SBDとSiC MOSFETを3端子のパッケージに収め、その後も、信頼性を高めた品種を製品化している。

SiCのコストメリットが出る条件とは

 一般に、新たな半導体の開発では、ウエハー、素子、システムの順に開発が進む。SiCの開発では既に素子からインバータなどのシステムへと焦点が移ったように見える。

 だが、そうではない。3つの工程全てに改良の余地がある。Siパワー半導体では実現できない領域を開拓しつつ、Siの用途を置き換えていくには少なくとも素子のコスト低減が欠かせない。そのためにはウエハーの大口径化と品質向上が鍵となる。なぜだろうか。

 2012年7月に開催された応用物理学会主催の「SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会 第7回個別討論会」では、トヨタ自動車、ホンダなどの自動車メーカーや、SiCに取り組む電機メーカーなどが活発な議論を戦わせた。

 特に注目を集めたのがトヨタグループの発表だ。デンソー基礎研究所 機能材料研究部でSiCデバイス研究室長を務める鶴田和弘氏は「SiCパワー半導体を車載用途に提供するには、2つの分野で技術開発が遅れており、強化が必要だ」と主張した。1つが作製する素子に応じた結晶欠陥の影響解析とウエハー製造時の欠陥制御、もう1つが結晶欠陥を前提とした素子の開発だ。

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