SiC(炭化ケイ素)と並んで次世代パワー半導体の旗手として脚光を浴びる「GaN」(窒化ガリウム)。しかし、実用化が進むSiCと比べて、GaNの開発は遅れているように見える。GaNを採用すると、SiCと同様に電力変換時の損失を低減できる。さらに、SiやSiCよりも高速なスイッチングが可能だ。これは電源の小型化に大いに役立つ。しかし、ノーマリーオフ動作が難しいという欠点もある。こちらは電源には向かない特性だ。GaNの長所を伸ばし、欠点をつぶす、このような開発が進んでいる。
世界各地で電力不足が課題となっている。国内はもちろん、6億人が影響を受けたインドの大停電など、新興国にも電力問題が隠れていることが明らかになってきた。
省エネルギー技術や再生可能エネルギーの導入、スマートグリッドの適用などさまざまな策はある。もちろん、半導体技術が貢献できる部分も大きい。Si(シリコン)に代わる新しいパワー半導体の導入だ。発電所で生まれた電力が最終的に消費されるまで、通常、何段階もの変換を経る。このときに無駄になる損失をパワー半導体の改善で大幅に低減できるからだ。
パワー半導体の製品化ではSiCが先行し、GaNが続く形だ。だが、GaNが抱える課題と、SiCの課題は大きく異なる。SiCが自動車などに採用されるためには寿命やコスト、歩留まり(良品率)の課題をクリアする必要がある。→記事全文はこちらから
Siに代わる新規のパワー半導体として「SiC」(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)を用いたパワー半導体の開発、製品化の動きが著しい。既に国内でもダイオードやトランジスタの量産が始まり、モジュール品の販売も続いている。さらには自動車への搭載といった道筋が見えてきた。SiCがSiよりも有利なのは、材料の物理的な性質に優れるからだ。SiCはSiよりもバンドギャップが大きいため、絶縁破壊電圧が大きな素子を製造できる。従って、素子を薄くできるほか、ドープ濃度を高くすることもできる。これにより、損失の一因であるオン抵抗を低減できる。
だが、次世代パワー半導体の候補はSiCだけではない。GaN(窒化ガリウム)もある。GaNは青色LEDの開発、製造に必須の材料であり、照明用白色LEDの商品化に大きく貢献している。GaNの優れた特性はLEDだけではなく、パワー半導体に採用した場合にも際立つ。一部の特性はSiCよりも優れているほどだ。
しかし、開発、製品化ではSiCよりも数年遅れている。GaNパワー半導体の長所を伸ばし、欠点をつぶす企業ごとの取り組みを紹介する。
GaNパワー半導体の実用化を阻む理由は大きく2つある。1つはSiCとも共通するウエハーの課題だ。ばらつきが少なく、高品質で大口径のウエハーの量産がSiウエハーと比較して遅れている。ウエハーの遅れは材料コストに直接跳ね返ってくる。
もう1つはGaNの半導体としての特性だ。GaNはイオン注入によって特性の良いp型層を自在に形成することが難しい。そのため、SiCで採用されたMOSFETやJFETといった構造のトランジスタを作り込みにくい。
2つ目の課題に対しては、HEMT(High Electron Mobility Transistor)と呼ばれる構造(図1)を採用することで対応する開発結果が多い*1)。GaN層の上部にAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)層を形成する(AlGaN/GaN構造)ことで、2次元電子ガスと呼ばれる状態が半導体中に自然に生まれる。2次元電子ガスはキャリア濃度が高く、飽和電子速度も速い。つまりオン抵抗が低く、高周波動作が可能な素子を作りやすい。これはGaNの最大の魅力だ。
*1) レーダーや衛星通信基地局などで必要な高周波信号の大電力増幅という用途に向けては、GaNのHEMT構造素子を用いた機器が既に量産段階に入っている(関連記事:高周波GaN次世代素子が存在感、旧来素子からの移行が本格化へ)。
だが、逆に言うと2次元電子ガスはゲートに電圧が印加していないときにも電流が流れる。「ノーマリーオン動作」になってしまうということだ。パワー半導体では「ノーマリーオフ動作」が求められる。なぜなら、故障時にゲートの制御が異常になったとしても、電流が流れず安全だからだ。
GaNで利用しやすい2次元電子ガスは、オン抵抗が低く、高周波動作が可能な素子を作りやすい。これはGaNの最大の魅力だ。GaNパワー半導体の開発においては、2次元電子ガスというGaNの好ましい性質を生かしながら、ノーマリーオフ動作を実現することに力点が置かれている。
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