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会議は、非リアルタイム系の“読み書き戦”に持ち込む「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(15)(4/6 ページ)

» 2013年03月25日 08時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]

ミーティング当日の質問は“ゼロ”を目指す

 「(b)電子メール戦」とは、文字通り、電子メールによる戦闘で、これがミーティング準備編前半の肝になります。

 といっても、相手企業のメールサーバにDOS(Denial of Services Attack)攻撃を仕掛けるといった物騒な話ではありません。実体は、情報戦……というより心理戦に近いものになるかと考えています。

 基本は、相手企業との電子メールによるやり取りにおいて、質問と応答の応酬を頻繁に行うことにあります。ただし、普通の応酬とは違い、一見、非常識とも思われるようなめちゃくちゃな数のメールを発信します。もちろん、それぞれのメールの内容は、きちんとした業務に関わるものであり、ビジネスマナーを順守した誠実な内容である必要があります。

写真はイメージです

 この「電子メール戦」の究極の目的は、ミーティング当日の質疑内容を最終的にゼロにすることです。全ての質問と応答を、海外出張前に完了してしまうのです。

 電子メールで質問を行い、その質問が戻ってくる前にもさらに質問を送り、回答が戻ってこないようなら、「いつまでにメールの返事をもらえるか」と問い、それすらも返事がないようだったら「代わりに誰にメールを投げればいい? あんたの上司に直接送ってもいいか?」などという、事実上の脅迫に及ぶことも視野に入れます。

 「こいつ、真剣なんだな」と思われるか、「こいつ、うっとうしい」と思われるかは、その仕事におけるカウンターパーソンやその時の運です。少なくとも、ビジネスに関わることであれば、うっとうしくとも無下にはできないはずです。

 今回私は、数年前に、フランスのある会社との仕事でやり取りしたメールを数えてみました。その会社へ私から発信したメールは46通、返信されてきたメールは10通でした。この間に、欧州ブランチでパートナーを組んでいた欧州人(多国籍のグループ)とのメールは700通を超えていました。

 この電子メール戦の目的は、以下に書く通り、明快です。

(1)“超低速の英会話”による打ち合わせを、当日のミーティング前に実施すること

 一日で、1〜2往復の会話の応酬ができれば十分です。送られてきたメールの内容は、ゆっくり解読すればよく、また、同僚やGoogle翻訳などのツールに助けてもらうこともできます。もちろん、返事をする場合にも同じ手段を用いることができます。

 3秒の会話の応酬を3時間で行うことの意義は、この、英文→英日翻訳→内容(技術)検討→文章作成→日英翻訳にわたる、一連の「時間稼ぎ」にあります。

(2)込み入った面倒な話を、当日のミーティングに持ち込まないこと

 本来のミーティングの目的は、メールなどではうまくニュアンスを伝えにくい事項や、文章として証拠に残したくない事項について話し合うことです。このような内容の典型的な例に、見積もり(estimation)や請求書(invoice)がありますが、「金額を書面に残してならない」とは、交渉における鉄則です。

 しかし、われわれは必要ならこのタブーに挑戦します。例えば、「うちのサーバ、一台100万円〜1000万円くらいだけど、おたくのシステムでは何台ほど必要になりそう?」という質問は、なかなかうまいです。一台100万円〜1000万円くらいというのは、「だいたい500万円だな」と両サイドに分かる隠語となります。

 この他、システム構成要素や回路図などの話をメールで行うことも大変難しいのですが、これにも挑戦します。ここで登場するのが、連載第10回でご紹介した「手書き資料」です。これをスキャナでPDFファイルにしたものを送付すればいいわけです。

 手書きの汚い資料は、それを誰かがキレイに清書しない限り、公式の文章としては取り扱われません。そういう意味では、「電子メール戦争における資料」は、手書きで汚いことが有利である、ともいえます。

 ともあれ、「金の話は営業の担当」、「回路の話は技師の担当」などと逃げないで、込み入った話に挑戦しましょう(もちろん、あなたの所掌範囲を越えてはいけませんが)。なぜなら、海外出張に行かされるのがあなた一人であれば、結局のところ、その面倒な質問は全部あなたが引き受けることになるからです。

 ですから、当日、突然発生するであろうやっかいなネタを、事前に徹底的にたたきつぶしておくことは、大変意味のあることなのです。

(3)全ての資料を送付し、完全なコメントをもらっておくこと

 なぜこうするのかというと、次のフレーズを言うためです。

この件については、既に意見をいただいております。その事項をここで確認致します」。実際のミーティングでこう言ってしまえば、議論にならずに済みます(これについては、次回のプレゼンテーション編にて紹介します)。

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