IoT(モノのインターネット)向け無線通信規格「Wi-SUN」の普及拡大を図る情報通信研究機構は、Wi-SUNの動向に関する会見を開催し、1年半から2年後にはWi-SUN搭載スマートフォンが製品化される見通しなどを示し、Wi-SUNの普及が順調に進んでいることを強調した。
情報通信研究機構(以下、NICT)は2013年10月9日、NICTが中心的な役割を果たして国際標準規格化した無線通信規格「Wi-SUN」に関する記者会見を開催した。2013年10月3日にWi-SUNが東京電力のスマートメーターと宅内(ホームゲートウェイ)を結ぶ通信方式に採用されたことなどを受け、今後普及拡大が見込まれる「M2M」(Machine to Machine)、「IoT」(モノのインターネット)を実現する無線通信の“国際標準”となることに自信を示した。
Wi-SUNは、サブギガヘルツと呼ばれる1GHz未満の無線周波数帯(日本では920MHz帯など)を使用する無線通信規格であり、スマートメーターなどエネルギーマネジメント分野の他、交通インフラや農業、医療など幅広い分野で、センサーや機器を結ぶM2M、IoTの用途での利用を想定する。通信距離は500m程度で、最大30台までのマルチホップ通信が行えるなど、2.4GHz帯を使用するWi-FiやZigBeeなどの無線よりも広範な通信エリアを確保しやすい特徴がある。消費電力も低く、1カ月2000回の通信頻度であれば、単3乾電池3本で10年以上動作できるモジュールなどが既に開発されている。
このWi-SUNの生みの親とも言えるのが、NICTだ。基礎的な技術開発から手掛け、IEEE(米国電気電子学会)でのWi-SUNのベースとなる物理層仕様「IEEE802.15.4g」とMAC層仕様「IEEE802.15.4e」の策定で中心的な役割を担った。さらに、Wi-SUNの相互接続性認証や普及啓もう活動を行う業界団体「Wi-SUNアライアンス」を設立し、同アライアンスの理事会議長として、活動をけん引する立場にある。
NICTの理事長である坂内正夫氏は、「さまざまな分野、産業でセンサー端末を使い、データを収集し、ビッグデータとして活用しようという動きがある。将来的には、その市場規模は十数兆円、数百億個のセンサー端末が利用されるという試算もある。そして、その膨大なセンサー端末には、通信が必要になる。そこで、Wi-SUNは世界標準の通信規格となり、世界的に使われる標準になろうとしている」と語る。
Wi-SUNが狙うM2M/IoT市場は、他の無線通信規格にとっても魅力的な市場であり、M2M/IoTに向けた通信方式は乱立傾向にある。その中でNICTは、Wi-SUNが“世界標準”の地位を築けるとみており、今月にはその自信をさらに深める発表があった。
坂内氏が「Wi-SUNにとって、非常に大きな出来事」と強調するその発表は、東京電力がスマートメーターと宅内に設置するホームゲートウェイ間の通信*)に使用する通信方式にWi-SUNの採用が決定したというものだ。この決定は、東京電力管内の2700万戸のスマートメーターとホームゲートウェイに、Wi-SUNが搭載されることがほぼ確約されたことになる。さらに「東京電力以外の国内電力会社でも、同様に採用されるだろう」(NICTワイヤレスネットワーク研究所スマートワイヤレス研究室長の原田博司氏)と言うように、日本の全てのスマートメーター、ホームゲートウェイにWi-SUNが使用される可能性が極めて高くなった。
*)東京電力はこのスマートメーターと宅内に設置するホームゲートウェイ間の通信を「Bルート」と呼ぶ。なおスマートメーターと電力網(宅外)側は「Aルート」で電力線通信、マルチホップ対応無線通信、携帯電話通信網の3つが使用される。
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