人工知能(AI)は、登場初期の黄金期と、1980年代前半のブームを除き、長く「冬の時代」が続いてきた。だがここに来て、ようやくAIが本領を発揮できそうな分野が登場している。それが、クラウドやソーシャルメディア、スマートフォンなどのモバイル端末の普及により、にわかに注目を集めるようになったビッグデータだ。
AI(Artificial Intelligence)、すなわち「人工知能」の筆者の独断的な定義は、“人工的に作られた知能”であり、人間の知能とさほど変わらないものを言う。「単独で考えることができる」「意志を持つことができる」能力を備えているものだ。分かりやすく言えば、人間の“脳”と遜色がなく、かつ、圧倒的な情報を集積して蓄積し、解析できるという代物だ(第1回参照)。
しかし、こんなものはいまだに存在せず、「世界で最も賢い」とうたわれているロボットですら、その知能は3歳児相当(第2回参照)と言われている。したがって、「考え・判断し・何らかの答えを出し・行動をする」という一連の動きをロボットにやらせようとすると、あらかじめ、AIにいろいろなこと(処理など)を覚え込ませる必要がある。だが、脳科学の世界では、いまだに人間の脳のメカニズムを解明しきれていないので、そもそも同じようなことをやらせようとしても無理な話だ。ロボットのように、ハードウェアとして実体のあるAI(「ハード型のAI」と筆者は呼んでいる)は、古典的で歴史も長いが、実現のめどは立っていないのが現状だ。
その一方で、この15年余りでインターネットの普及にともない、Googleなどの検索エンジン技術、データ/テキストマイニング、機械学習など、ソフトウェア処理のみでAIが成り立っているものが増えてきている(「ソフト型のAI」と筆者は呼んでいる)。処理などの決め事をしっかりと決めないと使いものにならない「ハード型のAI」から「ソフト型のAI」にシフトし、より身近な技術として、今まさに研究開発が進められている。一部は実用化されて、我々の日常生活に浸透しつつあるのだ。
「ソフト型のAI」は、「ハード型のAI」のように処理などの決め事を気にしなくてよい。大量のデータをコンピュータに取り込み、統計的・確率論的な処理を行うことで、それっぽい判断を行い、それっぽい結論を出してくれるものだ。
これらを可能としたものが、「(ネットワーク)クラウド」である。
例えば、スマートフォンに搭載されている音声認識技術としては、Appleの「Siri」、NTTドコモの「しゃべってコンシェル」が有名だが、これらは音声処理をスマートフォン側で行うのではなく、クラウド側で行う。したがって、スマートフォンの機種には依存しない。これらは全て「ソフト型のAI」で成り立っている。また、特に検索において、Googleの「セマンティック検索」や、Facebookの「グラフ検索」(現在、日本は未対応)などは、AIのソフト的な技術がフル動員されていることで有名だ。その際、「ビッグデータ」の存在を忘れてはならない。
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