2013年7月に、ソフトバンクの「SoftBank World 2013」において、同社の孫正義社長は、「2018年には半導体1チップに収まるトランジスタ数は人間の脳細胞の300億個を超える」という予測を発表した。一部のメディアにおいては、「2018年にコンピュータが人間の脳に追い付く」との予測もある。
いずれも、「ムーアの法則」に当てはめて試算したそうだ。現に、PCに搭載されているインテルのプロセッサ「Core i7」が既に14億個以上のトランジスタを搭載していることを見れば、300億個の実現性は高いと思われる。ただし、これは300億個のトランジスタを集積するマイクロプロセッサができたというだけで、人間の脳細胞と同じようなことが今すぐにできるというわけではない。「学習」や「認識」はできるだろうが、「単独で考えることができ、意志と感情を持つ人工知能」が出来上がるには、相当な時間が必要だと思う。
Deep Blueのチェス、Watsonのクイズをはじめ、「人間 vs. 人工知能」「人間 vs. コンピュータ」など、これまで人間は、「人間を超える人工的なモノを作り出すこと」に注力してきたように思える。
その1つが、人間の仕事を機械が代わりに行うことであり、19世紀初頭に始まった産業革命にみることができる。だが当時は、不眠不休で人間の何倍も働く機械に対して、人間が脅威を抱いた。職を失うという恐れも相まって、機械破壊運動が起こり、「人間 vs. 機械」という図式が出来上がった。しかし今日、機械を意図的に破壊する人間はそうそういないだろう。なぜなら、機械と人間の住み分けがきちんとできているからである。
ところが……である。つい先日、イギリスの「HUFFPOST TECH」に、「20年後の2034年には、47%の仕事が技術革新により消滅する」という、いささか衝撃的な内容のコラムが掲載された。19世紀の産業革命の時代は、仕事を追われると言われた労働者は単純作業者が主であったが、20年後に職を追われる労働者は単純作業者だけでなく、知性や創造を必要とする仕事や、医師や弁護士など高い専門性を有する職にまで及ぶとのことである。真偽のほどは確かではないが、産業革命から200年の時を経て、「人間 vs. 機械/コンピュータ」の構図が再び出来上がるかもしれないとは、何とも皮肉なものだ。
本コラムでは、何度かSFやフィクションの映画や小説を挙げ、その中に登場するAIについて述べてきた(第2回:映画の世界から読み解くAIの“ココロ”)。紹介してきたケースでは、どちらかと言えば、AIは“人類の敵”とばかりにマイナスのイメージが強い。AIが暴走し人類を破滅に追いやる、AIに人間が管理される社会になってしまうといった具合だ。中にはAIと人間が共存する内容のものもあるが、AIが悪者になるケースがほとんどだ。映画はともかく、マンガの世界にすら、「ドラえもん」のような、人間の友達になり得る、あるいは人間の役に立つ(ネコ型)ロボットはなかなか登場しない。
SFの世界では、AIが「自我に目覚めること」がキッカケで、AIが暴走することが多い。他には、AIが「自らの意志を持つ」「感情を持つ」などである。これらはいずれもSFの世界だけで、現実世界においては実現されていない。
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