Adesto Technologiesの不揮発性CBRAM(Conductive Bridge RAM)は、医療機器の殺菌処理に必要な“強いガンマ線”に耐性がある。放射線耐性を持つメモリが本格的に登場したことで、これまでは搭載できなかった機能を医療機器に実装できる可能性が出てきた。
健康状態や身体活動などをモニタリングするウェアラブル機器は、モノのインターネット(IoT)市場において、最も大きなシェアを占めている分野の1つだ。このようなウェアラブル機器の多くは、自分の健康状態を追跡したり、体に関する測定データを定量化したいと考えるユーザーをターゲットとしている。その一方、より複雑な医療用途に特化した機器も存在する(関連記事:ヘルスケア向けウェアラブル機器、“価値の創造”はまだこれから)。
心拍モニターや血液分析器、デジタル体温計、携帯型除細動器などを搭載する携帯型医療機器では、NOR型やSPIなどのフラッシュメモリが使われている。メモリに関しては、特にフォームファクタや電力消費量などが重要視されていることから、小型機器のコンピューティング性能を高めたり電池寿命を延ばしたりするための手法に、大きな注目が集まっている。
しかし、医療用のウェアラブル機器については、体に装着したり、体内に埋め込むことも可能な機器が登場していることから、安全性に関する課題も残る。スマート機器の多くは、無線通信機能を搭載しているため、このようなウェアラブル機器の安全性を確保するために標準規格が策定されている。例えば、2012年に発行された国際標準規格IEEE 802.15.6は、安全性や信頼性、電力、サービス品質、データ伝送速度、干渉保護などをサポートする。このため、同規格に準拠した無線機器やセンサーは、医療用途で使用することが可能だ。
量産されている使い捨て医療機器もあるが、高性能な医療機器の中には、再利用されているものもある。そこで重要な問題となるのが、このような機器を人体で使用するためには、殺菌処理が必要であるという点だ。殺菌処理を行うと、メモリを損傷する危険性がある。メモリは、医療機器の殺菌処理に必要なガンマ線に対する耐性がない。
放射線はこれまで、メモリの誤作動や故障の要因になるとされてきた。しかし、米国の市場調査会社であるObjective Analysisで主席アナリストを務めるJim Handy氏は、「過去にも、高地を走行するための自動車や、宇宙空間に打ち上げられる衛星などにおいて、メモリ技術が適用された事例はある」と指摘する。デジタルカメラが市場に登場した当初は、空港のセキュリティ検査装置の強力な放射線が写真用フィルムに悪影響を与える可能性があると考えられていて、カメラに搭載されているコンパクトフラッシュカードのデータも消えてしまうのではないかと懸念されていた。
Adesto Technologiesが今回新たに開発したメモリは、検証の結果、医療機器に不可欠な殺菌処理にも耐え得ることが実証されている。同社はこれまで、低電力メモリの開発に注力してきたが、それと同時に、長年にわたって独自開発メモリの放射線耐性に関する研究も積み重ねてきた。
同社のCEOであるNarbeh Derhacobian氏によれば、医療機器向けの耐放射線メモリは現時点では市場に投入されておらず、そのため医療機器の高性能化も限られていた面があったという。不揮発性CBRAM(Conductive Bridge RAM)は、標準的なメモリセルで1と0を記録するが、Adestoは製造過程においてメモリ内に誘電層を加えた。微小な電圧でメモリセルの抵抗を高抵抗あるいは低抵抗に変えて、1と0を区別する。
AdestoのCBRAMをテストしたカナダ NordionのEmily Craven氏は、その放射線耐性に驚いたと述べる。Nordionは診断や治療用の医療機器を提供するメーカーだ。同氏によれば、AdestoのCBRAMは、まず25キログレイ(kGy)と50キログレイのガンマ線でテストされた。さらに200キログレイにも耐性があったという。これは一般的な機器でも耐えられないくらいの強い放射線だ。Craven氏は、放射線耐性のあるCBRAMの登場で、これまでは搭載できなかった“スマートな”機能を備えた医療機器が開発される可能性がある、と期待を寄せている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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