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NANDフラッシュの基本動作(後編)福田昭のストレージ通信(10)(1/2 ページ)

前編に引き続き、NANDフラッシュメモリの中身を解説する。今回は、NANDフラッシュメモリに特徴的なMLC(Multi-Level Cell)方式、TLC(Triple-Level Cell)方式といった多値記憶技術の他、書き換え回数やデータ保持期間などを説明する。

» 2014年07月23日 08時00分 公開
[福田昭EE Times Japan]

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多値記憶技術とNANDフラッシュ

 NANDフラッシュメモリの特徴に、「多値記憶技術」の導入がある。多値記憶とは、1個のメモリセルに3値以上の値を記憶する技術を意味する。通常のメモリセル(多値記憶ではないセル)は2値、つまり1ビットのデータを記憶する。

 NANDフラッシュメモリの場合、多値記憶は1個のセルトランジスタに3通りのしきい電圧をプログラムする技術として開発が始まった。消去動作によるしきい電圧と合わせると、4通りのしきい電圧が存在する。すなわち1個のメモリセルに2ビットの値を記憶させることになる。

 半導体メモリの世界ではそれまで、1個のメモリセルに2ビットを記憶させる技術が商用化されたことはなかった。このため、NANDフラッシュメモリで多値記憶が商用化されたことは、画期的な出来事だったと言える。同じシリコン面積に2倍以上のデータを記憶することで、理論的には同じ製造コストで記憶容量を2倍以上にできる。記憶容量当たりの製造コストを一気に下げられる。

 現在(2014年)の時点でNANDフラッシュは、1個のメモリセルに2ビットを記憶させる「MLC(Multi-Level Cell)方式」と、1個のメモリセルに3ビットを記憶させる「TLC(Triple-Level Cell)方式」のチップがそれぞれ商用化されている。なお従来方式である1個のメモリセルに1ビットを記憶させるチップは、「SLC(Single-Level Cell)方式」と呼ばれている。

セルトランジスタのしきい電圧。上はSLC方式、下はMLC方式
NANDフラッシュメモリの記憶技術

MLC方式とTLC方式の性能

 前述のようにMLC方式ではプログラムによってしきい電圧を3段階、TLC方式ではしきい電圧を7段階に変える。しきい電圧をきめ細かく制御するためにプログラム動作では、印加する高電圧パルスを数回に分ける。高電圧パルスを印加し、しきい電圧を検証(ベリファイ)し、再び高電圧パルスを印加する。この工程を繰り返す。高電圧パルスの高さと長さは、目的のデータ値に応じて調整する。

 プログラムの工程を一連の繰り返しに分割することは、プログラム時間が長くなることを意味する。SLC方式よりもMLC方式、MLC方式よりもTLC方式のプログラム時間が、一般的には長い。

 工程の分割は読み出し(リード)工程でも同様である。MLC方式とTLC方式では、選択セルの制御ゲートに加える電圧を変化させて、選択セルのトランジスタがオン状態になるしきい電圧を読み取る。このため平均的にはSLC方式よりもMLC方式、MLC方式よりもTLC方式の読み出しレイテンシが長い。

書き換え回数の制限

 NANDフラッシュメモリでは、消去(イレース)とプログラムによってデータを書き換えると前編(第9回)で説明した。データの書き換えを繰り返すと、メモリセルは僅かずつ劣化していく。繰り返しがある程度重なると、劣化が急速に早まり、データの書き換えが困難になってしまう。このため製品のNANDフラッシュメモリでは、保証する書き換え回数(「エンデュランス」と呼ぶ)を制限している。

 エンデュランスはSLC方式のメモリセルが最も多く、チップ全体で10万回の書き換えを保証することが多い。MLC方式のメモリセルは隣接するしきい電圧値を分離するためのマージンが小さい。このためエンデュランスはSLC方式よりも少なくなる。1000回〜3000回が、製品で保証する書き換え回数である。TLC方式ではエンデュランスはさらに少なくなり、300回〜500回くらいに下がってしまう。

 エンデュランスはメモリセルの製造技術とも関連する。製造技術を微細化すると、エンデュランスは短くなる傾向にある。

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