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電力という不思議なインフラ(前編)〜太陽光発電だけで生きていけるか?〜世界を「数字」で回してみよう(6)(3/4 ページ)

» 2014年09月18日 10時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

変わった公共インフラ

 電力システムは、変わった公共インフラです。

 例えば、あなたが駅のプラットフォームに立っていて、30分後まで電車はやってこないことが分かっているとき、あなたは「電車を待つ」ことしかできません。

 また、あなたが交通渋滞に巻き込まれている時、自分に都合よく交差点の信号を青にすることもできません。

 電車システムや交通システムが、100%のサービスをユーザに提供できないことを、誰もが知っており、そして納得しています。

 ところが、電力は、原則として、需要者が好きな時に、好きなだけ使うことができます。そして、そのような「わがまま」な需要者の需要の最悪値(ピーク電力)に供えるべく、日本の電力会社は発電所を増設し、電力網を整備してきました。

 なぜ、こんな「わがまま」を需要者に許してきたのでしょうか?

 それは、「わがまま」こそが、日本経済を発展させる「起爆剤」だったからです。

 「無限に使える電力」を前提としなければ、家電製品やパソコンは売れませんし、新しい地下鉄を作ったり、工場に新型の産業用ロボットを導入したりする意欲も湧きません。

 しかし、このような「わがまま」は、オイルショック後から見直しが始まり、そして震災後は、「社会悪」として確定しました。

 このような「わがまま」な電力消費を抑止する為に、需要者に使用電力の『予約』をしてもらうことや、ピーク電力に近づくと電力の価格をつり上げるような課金方法もできました。

 外国の一部では、需要者との契約で、電力がピーク時になると、強制的にクーラーの電力だけを一時止める(30分くらい)というサービスも行われていて、一定の効果も上っているようです。

 このような、需要者側の「気づかい」で、電力の需給バランスを一致させることを、「デマンドレスポンス」と言います(参考資料)。

 デマンドレスポンスを、社会の隅々まで広げることによって、ピーク電力や、発電所の増設や再稼働を押さえることが期待されています。なにより大停電 ―― ブラックアウトの発生を防止するだけでも、デマンドレスポンスを一般家庭まで広げていくことには意義がありそうです。

 しかし、「デマンドレスポンスを、一般家庭まで広げていくこと」については、いくつかの疑問があります。

 以前、私は米国に赴任していたことがあるのですが、あの国には、真夏になるとクーラーを全力運転して、私を部屋の中で凍えさせ、真冬になると暖房を全力運転にして、私をのぼせさせる、理解しがたいエアコンの温度設定をする人間が多かったように思います。

 比して、「もったいない」を国是とし、オイルショックや震災という強烈なトラウマを、徹底した効率化や合理化や見える化で乗り越えて生きてきた私達日本人にとって、節電は、「モラル」ではなく「常識」です。

 そんな我が国において、デマンドレスポンスで、劇的な効果が現われるのか、については、ちょっと不安があります。

 もう一つは、一般家庭向けの電力消費量の比率が小さいということです。

 前々回に、「幼児から高齢者まで、日本の全国民は、1人当たり常時8人程度のメイドを従えて生きている」(関連記事:日本の電力は足りているのか?――“メイドの数”に換算して、検証してみる(前編))という考え方を提示しましたが、このうち、家の中で働いているメイド(使われている電力)は、わずか1.6人分です。

 やはり大きいのは、工場、デパート、そしてオフィスの電力となりますが、これらの施設には、震災後から今に至るまで、すでにかなりの節電対策が取られてきているはずです。

 そして、とどめは、前回ご報告した通り、少子化傾向が止まらない以上、電力不足問題は、そのままほっといても解決することになりそうだ、ということです(関連記事:“電力大余剰時代”は来るのか(前編) 〜人口予測を基に考える〜)。

 つまり、デマンドレスポンスで、良いことがあるかどうかは「実際にやってみなければ分からない」ということになりそうです。


 では電力シリーズ最終回の前半は、ここまでと致します。

 後半は、電力シリーズ最後のテーマは、「どうして電力会社は、原子力発電を捨てて逃げ出さないのか?」でトリを飾りたいと思います。

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