今の日本では、「電力が足りる/足りない」は、常に議論の的になっています。しかし、あと十数年もすれば、こんな議論はまったく意味をなさず、それどころか電力が大量に余る時代が到来するかもしれません。
先日のオフィスの昼休み、後輩のエンジニアと電力に関する話をしていました。
江端:「『電力を無制限に使っていい』とします」
後輩:「え? は? いきなり何ですか?」
江端:「電力を、無制限に使っていいです。何にどれだけ使ってもいいです。但し、必要な電力に限定します」
後輩:「はあ……。では、例えば、テレビを同時にいくつもつける、とか?」
江端:「同時に2つ以上のテレビを楽しめるならいいですが、そうでないならダメです」
後輩:「パソコンを何台も動かすとか」
江端:「O.K.です。でも、複数のパソコンを動かすちゃんとした理由がなければダメです」
後輩:「……」
江端:「では、『無制限』でなくても良いので、現在の『3倍』使ってください」
後輩:「ク、クーラーを……、24時間付けっぱなし、とか」
江端:「O.K.です。でも、暑くもない時や、寒くない時に付けるのはダメです」
後輩:「あ! そうだ。電気自動車がある!」
江端:「1回の給電で20kW時の電力を消費して連続走行距離が100km。江端家の月間走行距離は一月で400kmだから合計80kW時。今の江端家の月間電力使用量に対して2割強ってところです*1)」
後輩:「……」
江端:「日本国内の一般家庭で、月に平均500kmくらいの走行距離くらいで、それでもたかだか3割増程度です」
*1)参照記事はこちら
沈黙する後輩を前に、私は口調を変えて、彼らの上司として命令しました。
「ほれほれ考えんか。考えるのがお前たちの仕事だろうが。無制限に電力を使ってもいいんだぞ?」
「『省エネの夏』に、会社でなんという不謹慎な会話をしているのだ」と、お怒りの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はふざけているわけではないのです。
これは、今回の連載の重要なテーゼなのです。
こんにちは、江端智一です。
前回は、「現在」使われている電力を数字で回してみましたが、今回は、「未来」の電力を数字で回してみようと思います。
そもそも、電力は、電力のままでは使うことができません。電灯やPC、電車、エレベータなどの動力として使われたり、あるいは製品を作る製造ラインで使われたりして、初めて役に立つことになります。
しかし、これらの電力は、どのような形であれ、最終的に私たち人間が使います。ですから、使用される電力量は人間の数で決まるはずです。1人が使う電力より、2人が使う電力が多いのは当然のことです。
つまり、「日本における使用電力は、日本の人口と強い関連がある」と考えられます。まずはその関係を調べてみました。
下記のグラフは、1951年から2010年までの、日本の使用電力と人口のグラフです(出典:電気事業60年の統計、人口の推移)。
この図から、人口と使用電力に相関があるのは明らかなのですが、この図を見た瞬間、私は違和感を覚えました。人口は飽和傾向にあり、既に減少に転じているのに、まだ電力使用量には勢いが感じられるのです。
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