【付録】それでも、へこたれない後輩研究員
今回の冒頭で登場した後輩の研究員君に、このコラムを読んでもらったところ、すぐに私に噛みついてきました。
その内容がなかなか面白かったので、付録に掲載します。
後輩:「江端さん。確かに蓄電池は高価です。しかし、これからEV(電気自動車)の普及で、畜電池はどんどん安くなってきます。将来、自家発電ハウスは可能です!」
江端:「そうかなぁ? 仮に電池が安くなっても、ソーラーパネルによる発電量が、一日の消費電力量を賄えないでしょう? 電力変換効率はこれ以上は上げられないと聞いているし」
後輩:「ソーラーパネルを、今の2倍、設置すればいいんでしょう?」
―― え?
それは盲点だった。
パネル16枚で「4キロワット時」と勝手に決めつけていたけど、確かにソーラーパネルは、もっと屋根に乗せられるかもしれない。
そこで、早速、GoogleMapを使って、我が家の屋根の面積を調べてみました。
あ、すごい。
お金を湯水のように使って、蓄電池とソーラーパネルを買いまくることができれば、自家発電ハウスは、実現可能のようにも思えてきました。
と、その時、「江端さん。GoogleMapで、一体、何をやっているんですか」と背後から発せられる声に、驚いて振り向いたところ、そこには部長が立っていました。
江端:「あ、部長。実は、これこれこのような訳で、『自家発電ハウス』の可能性を検討していたところです」
と説明しました。
少しの間の後で、部長は言いました。
部長:「江端さん……。江端さんは、自分のお家を『つぶす』つもりですか?」
江端:「いや部長。これは、しょせん、机上のシミュレーションの話でして、金銭の話は……」
部長:「そうではなく、江端さんは、ソーラーパネル1枚の重量をご存じですか?」
―― は? ソーラーパネルの重さ?
私の数字の回し方は、まだまだ底が浅いようです。
※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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