生体が超省エネで活動できる理由は、細胞の“ゆらぎ”にあるという。ゆらぎを応用すれば、非常に低い消費電力で稼働するシステムを実現できるかもしれない。脳情報通信融合研究センター(CiNet)の柳田敏雄氏が、「NICTオープンハウス2014」の特別講演で語った。
生体は、複雑な仕組みを持ちながら、“超省エネ”で非常に効率のよい活動を行うことができる。
脳情報通信融合研究センター(CiNet:Center for Information and Neural Networks)は、生体が持つこのような特性を情報通信などに応用する研究を行っている。CiNetのセンター長を務める柳田敏雄氏は、情報通信研究機構(NICT)が研究開発の成果を展示する「NICTオープンハウス2014」(2014年11月27〜28日)の特別講演に登壇し、同氏が手掛けている研究を紹介した。なお、CiNetは、NICTと大阪大学が共同で、脳情報通信分野に関する融合研究の推進を目的に創設した研究機関である。
高性能なコンピュータは計算速度はすばらしく速いが、その分、膨大な電力を消費する。例えば日本発のスーパーコンピュータ「京」は、1秒間に1京回の計算を行えるが、12.6MWもの電力を使用する(2011年11月のデータ)。これは、一般家庭約3万世帯分の電力使用量に相当するという。これに比べて、脳が消費するのはたった1Wだ。柳田氏は、「ヒトの大脳には140億個の神経細胞があり、数十兆の結合を持つ、超大規模で複雑なシステムだ。もしスーパーコンピュータでこれと同じ数の結合(組み合わせ)を作ろうとすると、原子力発電機が何基あっても足りないくらいの電力を消費する。これに対して、思考中の脳の消費エネルギーを熱量から計算したところ、1Wであることが分かった」と説明する。
もちろん、人間の脳の計算速度や精度は、コンピュータに比べれば大幅に劣る。だが、“超省エネ”で活動する生体の仕組みを応用すれば、超低消費電力の機器開発に応用できる可能性があると、柳田氏は述べる。
では、なぜ生体は低いエネルギーで活動できるのか。そのヒントは、“ゆらぎ”にあるという。ゆらぎとは文字通り、細胞がふらふらと動くことだ。専門的には熱ノイズ、あるいはブラウン運動(微細な粒子がランダムに動くこと)という。
柳田氏らは、1分子の動きを計測することができる計測システム「1分子ナノ計測」を1990年代に開発している。それを使って筋繊維(筋肉を構成する細胞)を観察/解析したところ、筋繊維の成分の1つであるミオシン分子が、同じく成分の1つであるアクチン繊維上をふらふらと移動していることが分かったという。つまり、「ミオシン分子のゆらぎによって筋肉が柔軟に収縮している」(柳田氏)ということだ。
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