このゆらぎは、筋肉の細胞だけでなく脳の神経細胞でも起こっているという。「研究の結果、脳はゆらぎを使ってひらめいていることが分かった」(柳田氏)。例えば、だまし絵や隠し絵などを見ている時、脳の細胞全体が「ああでもない、こうでもない」と、集団でゆらゆらしながら答えを探しているのだそうだ。
同氏は、「ノイズを遮断し、全ての部品を正確に制御するのが機械なら、ノイズを利用して全体を大まかに制御しているのが生物である。そして、この“大まかに”というのが、機械とは桁違いの省エネを実現している理由になっている」と説明する。

ノイズを嫌い、遮断するのが機械。ノイズをうまく利用し、省エネで活動するのが生物(左)。スーパーコンピュータ「京」を使って心臓の動きをシミュレーションしたところ、ミオシンとアクチンから成る分子モーター(細胞内で、何らかのエネルギーを運動エネルギーに変換するもの)の“ゆらぎ”が、心臓がポンプのような動くために必要な柔軟性を生み出していることが分かった(クリックで拡大)CiNetは、生体のゆらぎを、ロボットや通信コンピュータネットワークなどに応用し、超低消費電力のシステムを開発する研究を続けている。ロボットについては、大阪大学の石黒浩特別教授と共同でプロジェクトを立ち上げ、ゆらぎを利用して人間に近いロボットの開発を試みている。だが、スムーズに研究を進めるのはなかなか難しく、同プロジェクトは、いったんストップしたという。ただし、外部からの資金投入などもあり再開のメドは立ったようだ。
通信ネットワークの分野では、ゆらぎの仕組みを応用することで、センサーネットワークを低消費電力で制御するというプロジェクトなどを進めている。
CiNetは、「脳の活動から、見ている映像を推測する」という研究も行っている。
まず、風景や動物、物などさまざまな画像をMRI(磁気共鳴画像装置)内の被験者に見せ、脳の視覚野の血流を調べた。どの映像を見た時に、どのような血流になるかを調べたのだ。次に、それを人工知能にパターン認識させた(機械学習)。その後、さらに膨大な量の映像を人工知能に見せ、映像に対する血流パターンのデータを蓄積していった。すると人工知能は、脳の血流パターンから何を見ているのかを、おおよそ予測できるようになったという。「われわれは、これを“脳の情報のデコーディング”と呼んでいる」(柳田氏)。同氏は、「機械学習の進歩や、CiNetが所有する7テスラMRI*)から得られる高精度な脳計測データの使用によって、脳情報のデコーディングは今後さらに進化していくだろう」と説明している。
*)非常に高い磁場を実現したMRI装置。「コラム」と呼ばれる、大脳皮質の神経細胞の構造や活動が、非侵襲(身体に傷をつけない)で計測できる。この装置自体が高性能だが、それをチューニングして見たいものを見られるようにすることが難しいという。
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