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石油は本当に枯渇するのか?世界を「数字」で回してみよう(12) 環境問題(4/5 ページ)

» 2015年02月09日 08時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

海洋生物が絶滅しないワケ

 ところで、話はちょっとそれますが、海洋生物の死骸が、少しずつでも原油として蓄積されていくのであれば、全体として、海洋生物は全体として減少していかなければ変ですよね。では、どうして海洋生物は絶滅していないのでしょうか。

 答えは、太陽エネルギーです。

 太陽エネルギーは、植物プランクトンの光合成に使われることで無機物を有機物に変化させます。その有機物は海洋生物の食料となります。ですから、海洋生物の死骸の一部が原油として地球の中に蓄えられても、どんどん太陽からエネルギーが供給され続け、さらに大気から海中に溶け込むCO2を光合成の原料として、原油は製造され続けるのです。

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 つまり地球は、「太陽からもらったエネルギーを原油に変換して蓄積する巨大装置」であり、「太陽光パネルと蓄電池からなるシステム」と同じことをしていると言えます。

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 この理屈で言えば、「生物由来説」を採ったとしても、太陽エネルギーが得られる限り、地球による原油の製造は、永久に続けられることになります。

 閑話休題。


 しかし、この210年は、実際にはもっと短い期間になるはずです。

 それは「原油がある」ということと、「原油を採掘できる」ということが、全く別の話だからです。

 地球の大地と海洋の比率は3:7ですから、海底油田は、地上にある油田の量より多いはずです。しかし、深海数千mから1万m以上の海底を掘るのは至難の技です。試掘だけも膨大な費用が発生します。どんなに潤沢な油田であったとしても、掘削コストが現在のコストを上回るようでは採算が取れず、海底油田への投資モチベーションは発生しません。

 「永遠の40年」は、コスト割れしない新しい掘削技術の開発が産み出してきました。これからも新しい原油の掘削技術が開発されれば、次の「永遠の40年」をゲットすることは可能です。

 しかし、どんなに技術が発展しようともこの「210年」を超えることはできません。

誰が何と言おうとも「無い袖は振れない」のです。

 「永遠の40年」の延長戦は、そろそろゲームセットに近づいています。


 最後に、駄目押しを1つ。

 私たち人類は、現在も稼働し続けている「地球の原油製造能力」に頼ることはできません。地球が35億年をかけて作ってくれた原油を、その1400万倍以上(35億年÷250年)のスピードで消費し続けているからです。

 この最後の210年を終了したら、次に同じように原油を潤沢に使えるようになる時期は、35億年後になります ―― その時に人類がまだ存続していたら、ですが。


 では、今回の話をまとめます。

  1. 地球は、太陽エネルギーと海洋生物の炭素を原料として、ここ35億年ほどの間、せっせと原油を作り続けてきた
  2. 現在の人類は、人間の死体8000万人(×8000人)分相当から作られた原油を、1日で消費している
  3. 現在の日本人は、1人当たり、人間の死体10人分相当から作られた原油を、ひと月で消費している
  4. 今後も現在と同様の原油の消費を続けたとしても、地球には、あと210年間分の原油は残っている
  5. しかし、「残って」いても、それを「掘り出せる」とは限らない

 それにしても ――大気の80%を占めていたCO2を、地球は35億年かけて、化石燃料という廃棄物として地中深くに沈め、CO2の濃度を現在の0.04%にまで下げてくれました。

 今、人類は、その化石燃料をせっせと燃やしまくり、再び大気に戻しています。それも、あと210年よりずっと短い期間で終えんを迎えます。

 私は今、『私たち人類って、変なことやっているなぁ』と、PCの前で数字を回しながら、ボーと考えています。


 今回は、私が突然気になり出した「本当に石油って枯渇するの?」にお付き合いいただきました。次回こそは、京都議定書、環境経済学をお話したいと思っております。

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