今回は、ハイエンド品である「RZファミリ」に焦点を当てる。RZファミリの特徴としてまず挙げられるのは、ARMの「Cortex」シリーズをCPUコアとして採用している点だろう。
前回に続き、ルネサス エレクトロニクス(以下は「ルネサス」と呼称)の顧客向け講演会兼展示会「Renesas DevCon JAPAN in Osaka」(以下は「デブコン大阪」と呼称)から、同社の最新ソリューションを紹介する。
これまでに説明したように、ルネサスが主力とするマイコン製品ファミリは、ローエンドの16ビットCISCマイコン「RL78ファミリ」とミッドレンジの32ビットCISCマイコン「RXファミリ」、ハイエンドの32ビットRISCマイコン「RZファミリ」で構成される。前々回はローエンド「RL78ファミリ」の新製品、前回はミッドレンジ「RXファミリ」の新製品に関する展示を紹介した。今回は、ハイエンド品である「RZファミリ」の新製品に関する展示を報告する。
「RZファミリ」の最大の特徴は、ルネサスがこれまで提供してきた独自アーキテクチャのマイコンではなく、英国ARM社が開発したCPUコア「ARM Cortexシリーズ」を採用したことだろう。マイコンではなく、SoC(System on a Chip)製品では、ルネサスは数多くのARM社製CPUコアを採用してきた。したがってARM社製CPUコア(一般的には「ARMコア」と呼称される)を内蔵するLSIの開発実績は豊富に有する。
ルネサスが「RZファミリ」の開発を発表したのは、2012年10月23日のことである(関連記事:「苦しい中でもマイコンは稼ぎ頭」、ルネサスが新ファミリを投入)。この時点で、40nmプロセスを採用した「RXファミリ」の高性能品(これが後に「RX700シリーズ」となる)と、RXファミリの上位に、動作周波数が300MHz以上のARMコア内蔵品「RZファミリ」を投入すると公表していた。その後、2013年6月20日には、RZファミリの最初の製品である「RZ/Aシリーズ」を発売した。RZ/AシリーズはCPUコアに「ARM Cortex-A9」を採用しており、最大400MHzの周波数で動作する。
デブコン大阪では、RZファミリの新製品である「RZ/T1グループ」が出展されていた。RZ/T1グループはルネサスが昨年(2014年)の11月18日にリリースした製品で、CPUコアに32ビットRISCアーキテクチャの「ARM Cortex-R4Fコア」(以下は「R4Fコア」と表記)を採用する。R4FコアはARM社がリアルタイム制御システムを想定して開発した32ビットCPUコアであり、当然ながら、RZ/T1グループもリアルタイム制御システム向けの製品である。
R4Fコアといっても、実際の仕様は製品ごとに違う。それは、R4Fコアがカスタマイズ可能なコア、というよりも正確には「カスタマイズを前提に」設計されたコアだからだ。ルネサスがRZ/T1グループに採用したR4Fコアは、浮動小数点演算ユニット(FPU)と密結合メモリ(TCM)、キャッシュ(命令キャシュとデータキャッシュ)、ベクトル割り込みコントローラなどを載せている。特に重要なのは密結合メモリ(TCM)である。
TCMは、キャッシュのように短いウエイトあるいはノーウエイトでCPUがアクセスする。キャッシュと大きく違うのは、TCMはアドレスを物理アドレスに置いており、アクセス時間が確定していることだ。処理時間の正確さが要求されるリアルタイム処理では、高速メモリにはキャッシュよりもTCMが適している。R4Fコアは、2つのTCM、すなわち「ATCM」と「BTCM」を搭載できる。RZ/T1グループは、512KバイトのATCMと、32KバイトのBTCMを内蔵する。二次キャッシュに相当する記憶容量である。
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