ルネサスでは、単独で開発を進める上で、消費電流の抑制とともに、RFトランシーバ周辺の外部部品の取り込みを行い、機器の小型化、低コスト化を実現するRFトランシーバの実現を目指した。だが外部部品をトランシーバに取り込むことは、性能劣化(損失の増加)を伴い消費電流を増やして性能を補う必要が生じるケースがほとんどで、消費電力抑制とは相反する行為となる。ただ、性能の良い素子/回路を内部に作り込むことさえできれば、その分だけ消費電力を抑制できる。
これに対し、ルネサスでは「回路の工夫により、RFトランシーバ自体の素子数を増やすことなく、従来よりも外部受動素子を1/3程度まで減らした上で世界最小の消費電流を達成した」という。
具体的には、RFトランシーバの外部部品として、最も大きな部品の1つであるアンテナ後段の送受信切り替えスイッチを損失の増大なく取り込むことに成功した。同スイッチを取り込んだRFトランシーバ自体は珍しいものではないが、「MOSスイッチとして取り込むためどうしても外部スイッチよりもスイッチとしての性能が劣るため、約2dBの損失が生じ、消費電流増大の一因となった」(ルネサス)。
そこでルネサスでは、スイッチを置く位置を一般的なアンテナと送受信回路の分岐位置ではなく、受信回路(RX)側増幅器前段のインダクタと並列に配置する回路を考案した。
並列スイッチは、受信時はオフ、送信時はオンする。常に送受信回路は接続された形だが、スイッチがオンすることでアッテネータ(減衰器)のような役割を果たすため、送受の切り替えが行える。この回路構成により、通常回路構成ではスイッチで生じる直列抵抗成分の発生を排除でき、約0.5dBというわずかな損失の増加でスイッチを取り込むことに成功。「通常の回路構成よりも消費電流にして約10〜15%低減させることができた」とする。
さらにこの並列スイッチ回路は、もう1つの利点を生む。常に送受信回路が接続されているということから、送信側増幅器の後段部分のフィルタ回路を受信回路と供用できるという利点だ。ルネサスでは送信時には高調波除去フィルタ、受信時にはイメージ除去フィルタとして機能する回路を開発。少ない素子で送受信フィルタを構成することで小型化、低消費電力化を図った。
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