EtherCATの特徴を表わす4つの言葉とは?
では、次にEtherCATの特徴についてお話したいと思います。
(1)従来のFAネットワークでは、専用の(ごつい、高価な)通信ケーブルを使うのが一般的でしたが、EtherCATでは、皆さんのPCをインターネットにつなぐのに使われている、100円ショップで普通に購入できるイーサネットと呼ばれるケーブルが使えます。
そして、このイーサネットを使った通信で使われる「イーサネットフレーム」にマスタ(ご主人様)からスレーブ(メイドたち)への命令が書き込まれます。
これは最大1500バイトの文字を書くこのできる巻物のようなものです。その巻物の長さは、最長36.4kmにもなります。(1518バイト[イーサネットMACフレーズサイズ]×8ビット÷100Mbps[ネットワーク転送速度]×約30万km/秒[光速])
(2)EtherCATのマスタ(ご主人様)は、EtherCATのスレーブ(メイドたち)全員に一斉に命令を出します。
ご主人様は、一人一人のメイドを個室に呼び出して指示を与えたりしません。必要であろうがなかろうが、前述した巻物に、全員分(最大65000人程度)の指示を書き込みます。その書き込みが完了したら、近くのスレーブ(メイド)にその巻物の先頭を渡します。
(3)スレーブ(メイド達)は全員、1列に並び、両手でその長い巻物広げて、少しずつ動かしながら、自分宛の指示を探します。自分宛ての指示を見つけたら、その巻物を「動かしながら」その処理を行い、「動かしながら」その処理の結果を巻物に書き込んでいきます。
(4)マスタ(ご主人様)は、巻物に書き込まれたスレーブ(メイド達)からの返事を「動かしながら」確認し、次の処理を考え、再び、次の巻物を作成します。
(5)また、スレーブ(メイド達)には「名前が与えられません」。並んだ順番でマスタ(ご主人様)に、1、2、3、4……と番号が振られるだけです。
EtherCATの特徴は、この「全員一斉」「巻物」「動かしながら」「名前がない」ことにあります。
EtherCATでは、イーサネットフレームを、バッファリング(ため込み)もルーティグ(振り分け)もせず、受け取ったビットを隣のスレーブ(隣のメイド)に渡すことで、驚異的に高速なデータ転送を可能としています(オン・ザ・フライ データ通信)。
EtherCATの最短送出間隔は125μ秒に設定されています。
これは最長のイーサネットフレームが送出を開始して完了するまでの時間(121.44μ秒)とほとんど同じです。
つまり、EtherCATはこれ以上高速にできないというところまでチューンされているのです。ちなみに送出間隔125μ秒の時、マスタはスレーブに1秒間に8000回(1秒÷125μ秒)の命令を出せることになります。
このようにEtherCATは、情報系ネットワークの常識(アドレス通信、プロトコル処理、バッファリング、ルーティング)を採用せず、逆転の発想で、超高速なリアルタイム通信を実現しているのです。
こんにちは、江端智一です。
この度、EE Times Japan、SOEMプログラム開発者様、ベッコフオートメーションの皆さまのご協力を頂き、「江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る」の連載をさせていただくことになりました。
この連載では、EtherCATの細かい仕様は全部吹っ飛ばし、私がここ何カ月かの休日を費やして試した方法のうち、
「(理由は分からんけど)こうすれば(とりあえず)動く」
という方法の全てを皆さんに開示します。
具体的には、SOEMという、PCで動くEtherCATマスタのオープンソースプログラムを使い、江端家のホームセキュリティシステムを題材に説明を進めていきます。
また、この度、ベッコフオートメーションからにお貸し頂いた、各種のスレーブについても、できるだけ動かしてみる予定です。
この連載の主な目的は、「EtherCATのざっくり理解」です。EtherCATの全てについて説明するような解説本は目指しません。ですから、本連載であなたがEtherCATのスレーブやマスタを作れるようなスキルを身に付けることは期待できません。あしからずご了承ください(そもそも、スレーブやマスタを作るためには、ETGに加盟する必要があります(次回以降で解説予定))。
それでも、この連載によって、EtherCATというFAネットワークの一部だけでも、理解する助けになれば、著者としては望外の喜びであります。
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