次に、製品アーキテクチャの種類について、図4に示す。図中、“F or f”はFunction(機能)を意味し、“S or s”はStructure(構造)を意味する。
製品アーキテクチャは、“インテグラル型”と“モジュラー型”の2つに分類される。前者を「摺り(すり)合わせ型」、後者を「組み合わせ型」と呼ぶこともある。
1つのモジュール(部品)が他の機能に関連し、モジュール間で相互作用がある製品をいう。複数の要素技術を擦り合わせて全体最適設計をする製品である。擦り合わせには、調整や独自のノウハウが求められる。
例えば、自動車などの「乗り心地」などの機能は1つの部品で実現されるものではない。自動車のエンジンやブレーキ、サスペンション、タイヤといった部品構造は、走行、停止、緩衝といった機能と絡み、相互関係も複雑である。
また、デジタルカメラの手ブレ防止も今では当たり前になったが、この機能もぶれ方向検出部分、レンズやセンサ等の位置補正駆動部分、同制御回路、アルゴリズムなど複数のモジュールで実現されている。
一般に顧客ニーズが複雑であればあるほど、製品全体の統合度が重要となり、インテグラル型の製品となる。日本は要素技術開発が欧米に比べて弱く、インテグラル型アーキテクチャ型開発が得意である。いや……電機企業にとっては「得意であった」と過去形にしなければならないだろう。本来、インテグラル型アーキテクチャは、部門横断的に製品開発に取り組まざるを得ず、組織能力が高い企業でないと対応できないからである。今の時代、果たしてこれが電機企業で成り立っているだろうか? これは今後の記事で徐々に明らかにしていくつもりだ。
一般に、インテグラル型アーキテクチャ製品の開発・生産においては、部門間の相互連携や現場での調整、そのための密接なコミュニケーションや情報共有が必要だ。セクショナリズムが顕著な組織には成しえない。このような高度の連携・調整能力こそが、日本のモノづくりが得意としてきた「擦り合わせ力」そのものである。
製品の各機能に対してモジュールが1対1に対応し、異なるモジュール間で相互作用がない製品をいう。
標準的な技術、モジュールを組み合わせて作る製品で、デスクトップパソコンなどに代表される。製品アーキテクチャでは、処理、記憶、保管、表示といった機能とCPU、メモリ、ハードディスク、ディスプレイといった構造がそれぞれ1対1で対応している。構成間(インターフェース)も標準化されているので、ユーザーは好みに応じて、容易に他メーカーのもの同士でも接続ができる。
技術、モジュール単位で開発組織が編成され専門的に特化して開発を行うので、専門知識の蓄積・高度化が起こりやすく、モジュールレベルでは技術革新が発生しやすくなる。特定機能に対する顧客ニーズが明確であり、そのニーズの変化スピードが速ければ、モジュール型の製品開発で効率的に対応することが可能となる。一方、製品全体の統合度は低下するので、複雑なニーズには対応できない。反面、コストダウンはやりやすい。
今回、製品アーキテクチャの基礎(前編)として2種類を挙げた。
インテグラル型アーキテクチャは摺り合わせで、高い組織能力が求められる。モジュラー型アーキテクチャは組み合わせで、昨今のデジタル家電は近い構造をとる。
これまで5回にわたって、イノベーションと企業価値、価値創造と価値獲得、意味的価値や組織能力の話をしてきたが、今回の製品アーキテクチャの話でなんとなく“つながった感”があれば幸いである。
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.