東京大学大学院の相田卓三教授らによる研究グループは、イオン液体にマイクロ波を30分照射するだけで、効率良くグラファイトを剥離することに成功した。グラフェンの大量生産を可能とする技術として注目される。
東京大学大学院 工学系研究科化学生命工学専攻の相田卓三教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター副センター長兼任)と同大学院 工学系研究科の松本道生大学院生らの研究グループは2015年8月、イオン液体にマイクロ波を30分照射するだけで、効率良くグラファイトを剥離することに成功したことを発表した。グラフェンの大量生産を可能とする技術として注目される。
グラフェンは、導電性や機械的強度、熱伝導度などに対して極めて高い物性を併せ持つシート化合物である。しかし、高品質のグラフェンを大量生産する技術がこれまで確立されていなかった。相田教授らの研究チームは、新たに合成したオリゴマーイオン液体に、グラフェンの積層物であるグラファイトを入れ、電子レンジなどで使用されるマイクロ波を30分間照射したところ、高い効率で積層体が剥離され、高純度の単層グラフェンを得ることに成功した。
研究チームは、今回の成果に先駆け、イミダゾリウムを主骨格に有する市販のイオン液体が、カーボンナノチューブ(CNT)のπ表面に対して極めて高い親和性を示し、束になっているCNTをばらばらにさせる効果があることを2003年に発見していた。ただ、面と面とで相互作用しているシート状のグラファイトに対しては、このイオン液体では十分な効果を得ることができなかった。
今回は、有機合成化学を用いてイオン液体となる分子を工夫し、剥離効率を向上することにした。具体的には、1つの分子内に2つのイミダゾリウム部位を持つイオン液体分子「IL2PF6」を設計し合成した。このイオン液体に原料となるグラファイトを25mg/mLの濃度で懸濁させ、CEM製マイクロ波合成装置を使ってマイクロ波を30分間照射した。その後、懸濁液からイオン液体を洗い流したところ黒色の粉末固体が得られた。
この粉末を各種分析装置で解析したところ、原料のグラファイトから93%のグラフィンを回収/生成することができた。しかも、単層グラフェン選択性は95%と高く、純度は原料のグラファイトとほぼ同等であることが分かった。さらに、これらの処理時間が30分という短時間で実現できたことも、量産技術に結び付ける大きな要素の1つといえる。
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