理化学研究所(理研)は、3000兆分の1秒という短い時間幅のパルスが並んだ「アト秒パルス列」という特殊な光で水素分子をイオン化すると、水素分子が振動を始めるための準備時間が、1000兆分の1秒であることを発見した。使用するパルスによって準備時間を制御可能になるという。
理化学研究所(以下、理研)は2015年9月1日、3000兆分の1秒という短い時間幅のパルスが並んだ「アト秒パルス列」という特殊な光で水素分子をイオン化すると、水素分子が振動を始めるための準備時間が、1000兆分の1秒であることを発見した。
水素分子イオンの振動は複数個の波動関数を足して得られる「波束」で表される。これまで水素分子イオンが振動を始める前の波束は、イオン化に伴い1000兆分の0.1秒より短い時間で瞬間的に形成されるのが当然とされていた。今回の発見により、これまでの常識よりはるかに長いことが分かり、使用するパルスによって準備時間を制御可能になる。分子運動の光制御において、イオン化が新しい技術をもたらすかもしれないという。
理研の光量子工学研究領域アト秒科学研究チームは、2012年にアト秒パルス列を用いて、水素分子イオンの振動波束の観測に成功している。この実験における水素分子のイオン化と水素イオンの解離の過程は、最も単純な1光子吸収過程(分子1つに対して光子1つが吸収される)で表すことができる。同研究チームはその単純さを利用し、波束を作っている波動関数がどのように波束を作るかを知ることができると考えたという。
同研究チームは、アト秒パルス列を2つのビームに分け、片方のアト秒パルス列がもう片方のアト秒パルス列より、わずかに遅れてターゲットの水素分子に到達する光学装置を開発。真空中に噴射した水素ガス分子にアト秒パルス列を噴射する実験を行った(図1の1)。水素ガス分子にアト秒パルス列を噴射した後、電子が1つ外れて水素分子イオンとなった瞬間(図1の2)に水素分子イオンの振動が開始するので、振動がしばらく続いた後(図1の3)、2度目のアト秒パルス列を集光照射する。
2度目のアト秒パルス列によって、水素分子イオンは水素原子と水素イオン(陽子)に解離したので(図1の4)、水素イオンを速度マップ画像(VMI:Velocity Map Imaging)分光器と呼ばれるイオン解析装置で測定。2度目のアト秒パルス列を集光照射する遅延時間を少しずつ掃引しながら水素イオンの運動エネルギー分布を記録し、2次元のスペクトログラムを得たという。
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