東京大学物性研究所の中辻知准教授らの研究グループは2015年10月29日、反強磁性体において異常ホール効果を「世界で初めて観測した」と発表した。同研究グループは高密度/高速な不揮発性メモリ素子の実現につながる発見としている。
東京大学物性研究所の中辻知准教授らの研究グループは2015年10月29日、反強磁性体において異常ホール効果を「世界で初めて観測した」と発表した。マンガンとスズの化合物「Mn3Sn」の反強磁性体で、室温以上の温度で、巨大異常ホール効果を見いだしたという。同研究グループは「これまでの磁気メモリ開発の常識を覆す革新的な成果」とし、高密度/高速な不揮発性メモリ素子の実現に期待を寄せる。
次世代不揮発メモリの1つである磁気メモリは、強磁性体を使用するのが一般的だ。しかし、強磁性体は、磁石同様にスピンの向きがそろった材料であり、磁気的な干渉の影響を受ける。そのため、記憶素子を高密度に配置することが難しいという課題を抱える。
一方で、反強磁性体は、スピン同士が反並行や、いくつかのスピンで互いに打ち消し合う配置をとり、スピン全体で作り出す磁場(磁化)がほとんどない。強磁性体が抱える漏れ磁場による素子間の干渉問題が存在せず、高密度化に向く。さらに、反強磁性体は一般に強磁性体よりも3桁以上の速い動作性能を示すため、高速化にもつながるとされる。
反強磁性体をメモリに使用するには、物質中に電流として流れる電子が磁場を感じることによって、電流方向と垂直な方向に電圧が生じる現象である「ホール効果」を利用する方法がある。
強磁性体によるメモリの多くは、“強磁性体層−絶縁体層−強磁性体層”の3層構造の間の抵抗変化で記憶情報を読み取る方法を用いているが、構造的に単純な単層で作動し、電力の散逸を軽減できるホール効果を利用した読み取り方法も知られている。加えて、強磁性体ではそろったスピンが物質内部に磁場を作るため、外から磁場をかけなくてもホール効果が自発的に現れる物質がある。こうしたホール効果は異常ホール効果と呼ばれ、これを利用したメモリ素子の開発も検討されてきたが、異常ホール効果で生じる電圧は小さく、実用的な開発は行われてこなかった。
そうした中で、自発磁化を持たない反強磁性体でも異常ホール効果が起こる可能性が理論的に示唆されてきたが、そうした物質はこれまで見つかっていなかったという。
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