これまで、非常に低い温度下で、磁気秩序のなしに自発的に現れるホール効果を示す物質を発見するなど研究を進めてきた中辻知准教授らの研究グループは今回、物質探索の中で、マンガンとスズの化合物であり反強磁性体のMn3Snで、室温で自発的な巨大異常ホール効果を示すことを発見した。
Mn3Snは、カゴメ格子と呼ばれる結晶構造で、磁性イオンであるマンガンは正三角形の頂点を占める位置にある(下図参考)。このとき、スピンがお互いに反対方向を向こうする力(反強磁性相互作用)が働くと、三角形の3つの頂点の間でその力が拮抗(きっこう)し、最終的にはお互いに120°だけ傾いた状態で安定する。
しかし、スピンの向きの取り方には幾つかの種類があり、上図(c)のようにスピンが互いに打ち消すようなスピン配置をとる。ただ、外から磁場を掛けるとわずかに磁化が観測される状態で、その値は、1つのマンガン元素当たり数ミリμBという。この磁化の値は、一般的な強磁性体の1000分の1程度と非常に小さいが、磁化測定の結果では、数百ガウスという比較的小さい磁場によってこの非常に小さい値の磁化の反転が見られたとする。それに伴い、ホール効果の電圧の正負が反転することも観測されたとする。
ホール抵抗率と磁化の磁場変化 出典:科学技術振興機構この自発的異常ホール効果によるホール抵抗率は、金属でありながら室温で50nmの薄膜において1Ωを超える値とし、「実用材料として有効と考えられる」(同研究グループ)という。また、自発的異常ホール効果は、反強磁性転移温度である160℃の高温まで特性を示すことも確認したとする。
Mn3Snは安定した物質であり、比較的簡便な方法で安価に物質合成が行え、毒性もないため、「実用材料として優れた特性を兼ね備えていることから、今後実用化を目指した研究開発が急速に進んでいくことが期待される」と同研究グループはみている。
同研究グループは今後の課題として、「磁気メモリ素子の書き込み動作として、磁気構造の反転をもたらすスピン注入磁化反転の適用の可能性について研究を進めていく必要があり、これが可能となればさらに実用化の道が見えてくることになる」としている。
光による磁気弾性波の発生に成功、磁壁・磁区を高速に制御可能
スピン注入式の新型MRAMがいよいよ製品化、2015年にはギガビット品が登場へ
埋もれた強磁性層からスピン分解電子状態を検出、デバイスの特性向上に期待
スピンを応用した“完全不揮発マイコン”を開発――消費電力は従来マイコンの1/80Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
記事ランキング