米国で開催されたプリンテッドエレクトロニクス(印刷エレクトロニクス)関連の展示会では、複数のメーカーが、小型のプリント基板を印刷する3Dプリンタを紹介した。3Dプリンタを使えば安価な基板を作製できる可能性があり、これが「トリリオン・センサー社会」実現の鍵になるとの声もある。
英国の市場調査会社であるIDTechEXが主催するプリンテッドエレクトロニクス関連の展示会「Printed Electronics USA 2015」が2015年11月18〜19日に米国カリフォルニア州サンタクララで開催された。2社が小型プリント基板を印刷できる3Dプリンタを発表し、Qualcommなど他の企業も、エレクトロニクス技術を進化させたプラスチック基板を披露した。
プリンティング技術の著名な技術者であるHP(Hewlett Packard)のJames Stasiak氏は、「3Dプリンティング技術は、1兆個のセンサーが使われる世界、いわゆる“トリリオン・センサー社会”の実現に貢献する技術だ」と主張する。
Stasiak氏は同イベントの基調講演で、「従来のエレクトロニクスと新しい種類の基板とナノ材料を使った3Dプリンティング技術を組み合わせることで、IoT(モノのインターネット)に必要とされる10米セントほどの安価なトランジスタの作製が可能になる」と話した。同氏はその一例として、有機ELディスプレイ技術を手掛ける米国のKateevaが開発した有機ELディスプレイ(OLED)を印刷できる1部屋ほどの大きさの「YIELDJet」インクジェットプリンタや、DNAやその他の生物材料で印刷する研究などを紹介した。
同イベントの展示フロアでは、イスラエルの新興企業であるNano Dimensionが3Dプリンタ「DragonFly 2020」を米国で初めて披露した。DragonFly 2020は、20×20cmの多層回路基板を印刷できる。80μmのトレース幅で最大3mm厚の回路基板が、3〜20時間で印刷できるという。同社のターゲットは、通常数週間かかる基板の作製時間の短縮を希望し、5万米ドルの同プリンタを購入できる資金力がある企業だ。
この3Dプリンタの鍵となるのは、Nano Dimensionが開発した導電性の銀インクと絶縁インクである。インクジェットヘッドにはコニカミノルタ製の物を採用している。Nano Dimensionの共同設立者でCEO(最高経営責任者)を務めるAmit Dror氏は、「3Dプリンタ市場を狙う多くの企業と同じように、同社も現在、より安価な銅の導電性インクの開発に取り組んでいる。だが、現時点ではまだどこも、“印刷プロセス中の銅の酸化を防ぐ”という課題を解決できていない」と語った。
Nano Dimensionは、創業してわずか2年のメーカーだ。「シリコンウエハー上に太陽電池を形成するために使われる高導電性銀インクを、プリント回路基板に適用する」というアイデアを事業化すべく、設立された。同社は投資家から1700万米ドルを集め、イスラエルのテルアビブ証券取引所で上場した。「2016 International CES」で事前予約を受け付け、2016年末の発売を目指すという。
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