PAN系炭素繊維の製造は、1)PANから糸を作る、2)それを酸化する(耐炎化する)、3)さらにそれを炭化する、4)表面処理を行う、という、4つの主要工程から成る。糸を高温で何度も“蒸し焼き”にして、炭素以外の成分を取り除いていくイメージだ。
中でも、200〜300℃で30分〜1時間、糸を焼いて酸化させる「耐炎化」は、エネルギーと時間を消費する工程となっている。300℃を超える高温になり過ぎてはいけないので、時折冷却しながらの作業となる。NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部の山崎知巳氏は、「耐炎化のプロセスが量産の足かせとなっていた」と話す。
新しい製造技術では、炭素繊維の原料(前駆体)としてポリマーを新たに開発したことで、この耐炎化の工程がなくなる。
新規ポリマー「溶媒可溶性耐炎ポリマー」は、衣料用に使われる安価なPANを材料としている。そのPANに溶解促進剤と酸化剤を添加し、溶液中で耐炎化反応(酸化反応)を行う。つまり、糸を作る前の段階で、既に耐炎化を済ませてしまうのだ。東京大学大学院 工学系研究科で教授を務める影山和郎氏は、これは「世界初の成果」だと述べる。
さらに、「溶媒可溶性芳香族ポリマー」も開発した。従来の前駆体に比べて炭化しやすいという性質を持っているので、径が太い炭素繊維の製造に有利だとしている。炭素繊維を太くできれば、それだけ生産量は増えるので、これも生産性の向上に貢献する原料だといえる。
3)の炭化プロセスでは、これまでは専用の加熱炉を使い、低温(1000〜2000℃)および高温(2000〜3000℃)で炭化していたが、大気圧下においてマイクロ波で糸を直接加熱することに成功した。影山氏は「簡単に言えば、糸を”電子レンジでチン”するイメージだ」と説明する。加熱炉を常に高温に保つ必要がなくなるので、炭化プロセスを短縮化できる。
4)の表面処理では、現行は薬液を使っているが、プラズマを導入することでプロセスを大幅に簡略化した。
このように、新規ポリマーの開発、マイクロ波による加熱、プラズマによる表面処理という3つの新しい技術によって、製造時の消費エネルギーとCO2排出量は半減し、単位時間当たりの生産量は10倍に向上するという。具体的には、
なるとしている。
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