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炭素繊維の量産加速へ、新たな製造技術を開発鍵は新原料と“電子レンジでチン”(2/3 ページ)

» 2016年01月15日 09時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

鍵は新原料と“レンジでチン”

 PAN系炭素繊維の製造は、1)PANから糸を作る、2)それを酸化する(耐炎化する)、3)さらにそれを炭化する、4)表面処理を行う、という、4つの主要工程から成る。糸を高温で何度も“蒸し焼き”にして、炭素以外の成分を取り除いていくイメージだ。

現行の製造工程 現行の製造工程(クリックで拡大) 出典:NEDO

 中でも、200〜300℃で30分〜1時間、糸を焼いて酸化させる「耐炎化」は、エネルギーと時間を消費する工程となっている。300℃を超える高温になり過ぎてはいけないので、時折冷却しながらの作業となる。NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部の山崎知巳氏は、「耐炎化のプロセスが量産の足かせとなっていた」と話す。

 新しい製造技術では、炭素繊維の原料(前駆体)としてポリマーを新たに開発したことで、この耐炎化の工程がなくなる。

NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部の山崎知巳氏 NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部の山崎知巳氏

 新規ポリマー「溶媒可溶性耐炎ポリマー」は、衣料用に使われる安価なPANを材料としている。そのPANに溶解促進剤と酸化剤を添加し、溶液中で耐炎化反応(酸化反応)を行う。つまり、糸を作る前の段階で、既に耐炎化を済ませてしまうのだ。東京大学大学院 工学系研究科で教授を務める影山和郎氏は、これは「世界初の成果」だと述べる。

 さらに、「溶媒可溶性芳香族ポリマー」も開発した。従来の前駆体に比べて炭化しやすいという性質を持っているので、径が太い炭素繊維の製造に有利だとしている。炭素繊維を太くできれば、それだけ生産量は増えるので、これも生産性の向上に貢献する原料だといえる。

 3)の炭化プロセスでは、これまでは専用の加熱炉を使い、低温(1000〜2000℃)および高温(2000〜3000℃)で炭化していたが、大気圧下においてマイクロ波で糸を直接加熱することに成功した。影山氏は「簡単に言えば、糸を”電子レンジでチン”するイメージだ」と説明する。加熱炉を常に高温に保つ必要がなくなるので、炭化プロセスを短縮化できる。

 4)の表面処理では、現行は薬液を使っているが、プラズマを導入することでプロセスを大幅に簡略化した。

新しい製造工程 新しい製造工程 出典:NEDO

 このように、新規ポリマーの開発、マイクロ波による加熱、プラズマによる表面処理という3つの新しい技術によって、製造時の消費エネルギーとCO2排出量は半減し、単位時間当たりの生産量は10倍に向上するという。具体的には、

  • 生産性:1製造ライン当たり年間2000トン→2万トン以上に
  • 製造エネルギー:炭素繊維の生産量1kg当たり286MJ(メガジュール)→140MJ以下に
  • CO2排出量:炭素繊維の生産量1kg当たり22kg→11kg以下に

なるとしている。

新製造方式で生産した炭素繊維のエネルギー削減効果 新製造方式で生産した炭素繊維のエネルギー削減効果。「進藤方式」というのが現行の方法。炭素繊維を発明した産総研の進藤昭男氏が生み出した製造方式で、発明後60年近くたってもまだ使われている(クリックで拡大) 出典:NEDO

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