産業技術総合研究所(以下、産総研)の吉田学氏らは、製造時に生じる有機デバイス特有のばらつきを利用して、偽造を困難にするセキュリティータグ回路を開発した。同回路は柔らかいプラスチック基板上に作成することが可能である。
産業技術総合研究所(以下、産総研)フレキシブルエレクトロニクス研究センター 印刷デバイスチームの研究チーム長を務める吉田学氏らは2016年1月、製造時に生じる有機デバイス特有のばらつきを利用して、偽造を困難にするセキュリティータグ回路を開発したことを発表した。同回路は柔らかいプラスチック基板上に作成することが可能である。
今回、開発成果を発表したのは吉田氏の他、産総研フレキシブルエレクトロニクス研究センター 印刷デバイスチームの栗原一徳研究員や、ナノエレクトロニクス研究部門 エレクトロインフォマティクスグループの堀洋平主任研究員、小笠原泰弘研究員、及び片下敏宏主任研究員らによる研究グループ。
開発した技術は、同じ設計データの回路でも、有機デバイスを製造する際に生じるわずかな素子間のばらつきを利用して、タグごとに固有番号を生成するセキュリティータグの技術である。今回は、大気中で安定性が高い有機材料と無機材料を用いたハイブリット絶縁膜を組み合わせることで、動作電圧が2Vと小さい上に、エラーの発生確率(エラー率)が低い回路を実現した。
製造プロセスによって生じる、素子特性や加工形状のわずかなばらつき(ICの指紋などと呼ばれる)を検出して固有番号を生成する手法は、シリコン基板上などで一部適用されている。今回は、産総研で培ってきたフレキシブルデバイスの低温製造プロセスと「ICの指紋」技術を組み合わせることで、取り扱いが容易なプラスチック基板上に、セキュリティータグ回路を形成することが可能となった。
有機半導体を用いたことで、無機デバイスにはない分子の向きや表面形状などのばらつきも利用することができるという。開発したセキュリティータグは、リングオシレーターと呼ぶ発振回路を利用した。2個のリングオシレーターの発振周波数の大小を比較して、「0」か「1」の数値を生成する仕組みだ。
同じ設計データを使っても、製造時のばらつきによって発振周波数はわずかに異なる。この特性を利用して、セキュリティータグ回路内に複数のリングオシレーターを作成すれば、タグごとに固有の数値を生成することができる。今回はリングオシレーターを選択する回路やカウンターの回路ブロックを外付けとしているが、将来的にはリングオシレーター回路と同時に作り込むことが可能だという。
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