第5回では、「深層の競争力」と「鍛え続けた強み」を合わせたものを、「モノづくりの組織能力」と定義し、「難しいことを自然に実現してしまう能力」に近いと述べた。「模倣されない技術」は“革新技術”と“積み重ね技術”から成り、特に後者は組織学習が必須だ。これも理屈は難しいのだが、組織的に部門の中で、“学び合う文化”、“対話を通じた人間関係・信頼関係の醸成”、“人が育つ環境づくり”を行っている。これらにより、組織および組織を構成する個人が繰り返し学習し、高い設計能力や開発能力、問題解決能力などを蓄積していく。これらを総称して組織学習と呼んでいる。
製品、特にデジタル家電においては、製品を真似(まね)ることが容易だ。どこのメーカーのものでも似たり寄ったりで、だからこそ、先述した意味的価値が欠かせないのだが、真似されても困らない製品設計はどうするのかと考えることも必要になる。用いられている技術が明らかになったとしても、決して同じ製品を作ることができない――。こういうモノづくりとは何かを追求すべきであり、それには「組織能力」に加えて、「製品アーキテクチャ」がキーとなる。
第6回では、製品アーキテクチャの基礎をお伝えした。日本の製造業、特に自動車に見られる「インテグラル(摺り合わせ)型」とPCに見られる「モジュラー(組み合わせ)型」の2つだ。さらに、「オープン型」と「クローズド型」に分類され(第7回)、電子計測器制御のGPIB(General Purpose Interface Bus)を例に、標準化戦略としてトヨタ自動車のFCV(燃料電池自動車)の特許公開について述べた。
また、DVDプレーヤーを例に、標準化戦略をとった東芝がわずか10年足らずでシェア100%ら20%以下までに落ち込んだ最大の要因は、製品アーキテクチャがモジュラー型でかつ、標準化によるオープン化。内部の設計はアナログのビデオデッキの時代とは異なり、デジタルであったことも、競合企業が同等製品を短期間で市場投入できた理由だ。
従って、これと同じ轍を踏まぬよう、製品アーキテクチャによる差別化や模倣の“されにくさ”を視野に入れなければならない。例えば、製品の内部構成と外部構成をどのようにするかにより、とるべき戦略は大きく変わる(第8回)。ここでは自動車を例に挙げたが、自動車というのは、インテグラル型でありながら、意味的価値が高い製品であることも分かってくる。これが電機業界のメーカーにおいては、日本企業はインテグラル型が本来、得意であるにもかかわらず、モジュラー型を採用して労働集約型(中国)や資本集約型(韓国)と真正面から勝負してしまい、さらに、“カイゼン”という言葉が美化され過ぎて、オペレーション偏重となってしまった。デジタルでモジュラーが進み、オペレーションだけで製品の差別化や価値獲得を実現するのは至難の業なのである。
グローバル化による国際標準化は、一般に製品のオープン化を加速する。「わが国のイノベーションの賜物(たまもの)である技術を備えた製品を市場に投入すれば、やがては自社の企業利益を生み出す」という従来の希望的観測パラダイムのシナリオ通りにはいかなくなる。東芝は、こうした理由から、イノベーション満載のDVDプレーヤーでまさにアジア諸外国に追い越されてしまったのである(第9回)。
さらに、この製品アーキテクチャは、日本のモノづくりそのものの構造を変えつつある。インテグラル型の代表格であった自動車ですら、クローズド・スタンダードからオープン・スタンダードへと移行し、標準化の道を進んでいる。その結果、垂直統合型モノづくりから水平分業型モノづくりにシフトし、垂直統合型で強みを発揮してきた日本企業の競争優位性は足元から崩れ去った(第10回)。
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