モノづくりでは、開発期間を短縮するため、標準化が進んでいる。これにより、産業構造が垂直統合型から水平分業型へと移行している。日本メーカーの競争力が弱くなっていった要因は、この世界的な流れに乗り切れなかったことが挙げられる。
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前回(第9回)の最後に、「製品アーキテクチャが、「インテグラル型(擦り合わせ型)からモジュラー型(組み合わせ型)の加速」にシフトすることで、グローバル市場における製品標準化には大きく貢献したが、潤ったのはアジア諸外国(特に中国、韓国、台湾など)で、日本企業はこれっぽっちも、もうからなかった」と述べた。第2回で示した「価値創造はできても価値獲得ができなかった」典型例が、このDVDプレーヤーである。
ここで少し考えてみたい。
仮に、企業が保有する技術を絶対に社外には漏らさず、製品アーキテクチャはインテグラル(擦り合わせ)型を選び(つまり手間がかかる)、熟練者の匠の技も要求される……となれば、世間から注目を浴びる革新的な製品であっても、市場へ普及するには相当な時間がかかるだろう。すなわち、インテグラル(擦り合わせ)型のアーキテクチャで構成されていると、市場への拡散スピードが遅くなるということは1つ、ハッキリと言えるのである。
また、第8回の図1において、外と中のアーキテクチャの違いによる差別化を示したが、製品のプラットフォームの中核がインテグラル(擦り合わせ)型で構成され、その外部インタフェース*)(電気的特性、形状などの機械的特性)が業界標準となって初めて、モジュラー型の完成品に組み込まれることとなり、市場へ大量に普及するに至ったのである。
*)例えばPCでは、ATAPI(AT Attachment Packet Interface)=IDE(Integrated Drive Electronic)からS-ATA(Serial AT Attachment)、テレビなどの映像製品においての外部インタフェースではDVI(Digital Visual Interface)からHDMI(High-Definition Multimedia Interface)などへと、インタフェースが進化している。
映像分野においては、DVDプレーヤーのような製品では、「録画・再生メディアの互換性」「魅力的なコンテンツ(映画、音楽、テレビ放送番組など)」も存在しないと、そもそも市場の裾野が広がらない。DVDプレーヤーを作っても売れないのは目に見えている。もしも複数のメーカーがDVDプレーヤーを製造しているのであれば、価格競争が起こり、購買者としては、「より良いものを、より安く」という選択肢ができる。
だが、1社独占の状態では、競合企業からすれば参入障壁が高く、購買者としては価格が高くとも、メーカー選択の余地がない。さらに、既存のメディアが使えない、わくわくするようなコンテンツがない、となれば、見向きもされなくて当然だろう。
一方、PC分野においては、DVDドライブとしてこれまでのCD-ROM(650〜700Mバイト)にとってかわる大容量(4.7Gバイト)をウリに、ソフトウェアのインストールメディアとしてだけではなく、テレビの代わりにPC上でDVDを再生してきれいな映像を見るという新しいPCの楽しみ方を提供した。結果として世の中にDVDドライブを普及をさせたわけだ。
恐らく、世界に先駆けて、DVDプレーヤーを製品化した東芝もそれなりの戦略を練り、意思決定がされたはずだ。企業活動は社会貢献も大事だが、それも利益があって初めて成し得るものなので、意図的に狙って「グローバル市場における製品標準化」を決断したとは考えにくく、最初は自社の利益を優先し、メディアやコンテンツの周辺企業も巻き込まないといけないと考えた上での標準化であったに違いない。
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