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“第4の夜明け”迎えたWi-Fi、サービスが課題にプレーヤーの多様化による懸念も(2/3 ページ)

» 2016年02月16日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

国全体で取り組みが強化

 とりわけ公衆Wi-Fiの拡大を後押ししているのが、外国人旅行者の増加だ。国内の主要キャリアであるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクはいずれも、外国人旅行者向けの無償Wi-Fiスポット数の拡大を図っており、その数は現在、70万カ所以上に上っている。

 さらに、小林氏はWi-Fi環境の整備に関わる政府の予算額を例に挙げ、いかに政府がWi-Fiの利用促進に力を入れているかを語った。例えば総務省は2016年度の同省所管予算(案)において、Wi-Fi環境の整備促進として、観光/防災Wi-Fiステーション整備事業向けだけで2.6億円を、公衆Wi-Fi環境整備支援事業として12.6億円の内数*)を割り当てている。

*)携帯電話などエリア整備事業に12.6億円が割り当てられていて、公衆Wi-Fi環境整備支援事業には、その内数を使うことができる。

 さらに観光庁は、外国人観光客の受け入れ環境を整える緊急対策事業向けとして、80億円の予算を設定しており(2016年度当初予算案)、客室トイレの洋式化や案内表示などの多言語化とともに、Wi-Fi環境の整備も加速するとみられている。

 こうした公衆Wi-Fiの拡大に加え、家庭内Wi-Fiも利用が進んでいることから、小林氏は、「Wi-Fiの国内市場をざっくりと大胆に推定すると、約2兆6000億円の規模になるのではないか」とみている。

プレーヤーの多様化による懸念も

 次に小林氏は、Wi-Fiを使ったサービスについて言及した。これについては、Wi-Fiを利用することで、「よりきめ細かいサービスが提供できるようになる」とし、Wi-Fiの電波を利用して脈拍や呼吸数を計測する「Vital-Radio」など、興味深い技術が登場していると語った。さらに、GoogleやFacebookなど、キャリア以外の企業がWi-Fi市場に参入し、プレーヤーが多様化していることで、「ユーザーが喜ぶようなサービスも、これから増えるだろう」との見解を示した。

 一方で、小林氏は、ある懸念も抱いている。

 Wi-Fiを使ったサービスの開発や展開については、GoogleやFacebookなど、特に米国のOTT(Over the Top)の勢いがすさまじい。Googleは2015年8月に、12本のアンテナを内蔵したWi-Fiルーター「OnHub」を発表した。さらに、Wi-FiスポットとLTEネットワークを組み合わせたシームレスな通信を提供する「Project Fi」の実証実験も開始している。小林氏は、「Wi-Fiと組み合わせることで、LTEのみを使うよりははるかに低価格に料金を設定できる。現在、米国でトライアルを行っている段階だが、キャリア各社が戦々恐々としてその動きを注視している。このトライアルが成功すれば、日本にもこうしたシステムが上陸する可能性はある」と述べる。

GoogleのWi-Fiルーター「OnHub」「Project Fi」のロゴ 左=GoogleのWi-Fiルーター「OnHub」/右=「Project Fi」のロゴ(クリックで拡大) 出典:いずれもGoogleのWebサイトより

 Facebookは、フランスの通信衛星運営企業であるEutelsat(ユーテルサット)と提携し、2016年後半からアフリカ南部で衛星インターネットアクセスを提供すると発表している。「衛星通信を利用してインターネットに接続し、その下でWi-Fiを使う」(小林氏)という。

 小林氏は、「Wi-Fiが(毎日の生活に欠かせない)インフラとして確立されるようになっていることで、こうしたさまざまなビジネスがこれからも登場してくると思う。ただ、Wi-Fiをどうビジネスに利用するのか、ということに対する熱意が、GoogleやFacebookなど米国の大手OTTに比べて、日本のキャリアやITのプレーヤーは弱いと、個人的に感じている。日本は、LTEがあれば事足りる。まだそう思っているのではないか。それが懸念事項だ」と警鐘を鳴らしている。

 2016年1月時点における企業の時価総額は、Appleが約60兆円、Google(Alphabet)が約59兆円、Facebookが約36兆円、Amazonが約31兆円だ。小林氏は、こうした途方もない額の資金を持った企業が、本気でWi-Fi技術/サービスに投資し始めたら、その他の多くの企業はとても歯が立たないのではないか、と指摘する。そうなると、Wi-Fiを利用する新しいサービスが、一部の巨大OTTに独占されてしまうという懸念も生まれてくる。

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