このようなエネルギー分布を採る光を効率的に電力へ変換するにはどうすればよいのだろうか。
太陽電池は光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置だ。半導体が備える性質「バンドギャップ」を利用して変換する。半導体中の電子は特定の範囲(禁制帯)のエネルギー状態をとることができない。この範囲の幅(電圧)をバンドギャップエネルギーと呼ぶ。バンドギャップを乗り越えるのに十分なエネルギーの光を電子が吸収すると、電子は高いエネルギー状態に移行し、これが出力電流の基になる。
バンドギャップの大きな半導体を使うと、高い電圧が得られるものの、エネルギーの高い短波長の光だけしか吸収できない。短波長の光は、図1にあるように少ない。吸収する光の数が少ないと電流が減ってしまう。このため、十分に高効率な太陽電池とはならない。バンドギャップの小さな半導体を選ぶと電流は増えるものの、出力電圧が下がってしまう。やはり変換効率は十分に上がらない。
理想的なバンドギャップをもつ半導体を選んだときでも、変換効率は約30%以上にはならない。これが理論限界だ。David Young氏によれば、単結晶Siを用いた場合、29.4%が理論限界であり、今回はこの理論限界を突破したことに意味があるのだという。
限界を超えるためには、バンドギャップの大きな半導体を上層(トップ層)に、小さな半導体を下層(ボトム層)に配置し、トップ層で吸収できなかった光が透過するように工夫すればよい(タンデム構造)。層の数が2つの場合、変換効率の理論上限は42%まで高まる(シリコンを使わない場合)*2)。
今回の研究では、バンドギャップの大きなGaInPで薄い太陽電池セルを形成し、単結晶Siで透過光を吸収した(図3)。
*2) パナソニックのHIT太陽電池セルは、結晶構造が異なり、異なるバンドギャップを持つシリコンで多接合構造を作り、最大25.6%という高い変換効率を得ている。さまざまなIII-V族化合物半導体の薄膜を積層すると、変換効率はさらに高まる。5層構造の場合、記録は38.8%。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.