東北大学大学院工学研究科の吉住孝平氏らの研究グループは、スピン演算素子に必要な「永久スピンらせん状態」と「逆永久スピンらせん状態」間の電界制御に成功した。相補型電界効果スピントランジスターやスピン量子情報など、電子スピンを用いた次世代デバイスの実現に寄与する技術とみられている。
東北大学大学院工学研究科の吉住孝平博士前期課程学生(現在トヨタ)、好田誠准教授、新田淳作教授らの研究グループは2016年4月、スピン演算素子に必要な「永久スピンらせん状態」と「逆永久スピンらせん状態」間の電界制御に成功したと発表した。相補型電界効果スピントランジスターやスピン量子情報など、電子スピンを用いた次世代デバイスの実現に寄与する技術とみられている。
電子は「電荷」と「スピン」という2つの特性を持つ。現行の電子デバイスは、電荷の性質を利用しており、これを電気的に制御して動作させる。これに対して、スピンの性質を活用すると消費電力が極めて小さく、高速演算が可能なデバイスを実現できるとみられている。ただ、スピン演算素子を実現するためには、スピンの向きを長距離/長時間保持しつつ、その向きを正確に制御する技術が必要となる。
スピンの向きを、電界を磁界に変換するスピン軌道相互作用効果によって得られる磁界で自在に制御することができれば、従来の一般的な磁界制御に比べて、デバイスの省電力・高速化が可能になるという。ところが、スピン軌道相互作用で得られる有効な磁界は、電子が散乱されると有効磁界の向きが変化して、電子スピンの向きがばらばらになる。このようなスピン緩和が生じると、長距離・長時間スピンの向きを保持することと、スピンの電界操作を両立することが難しくなるという。
これらの課題を解決するため、いくつかの研究機関で「永久スピンらせん状態」を作る研究が行われてきた。ところがこの状態だとスピンが定常状態となり、スピンを電界操作することはできなかった。
そこで東北大学の研究チームは、スピン電界制御に適した半導体量子井戸構造から、ゲート付きホール素子構造を作製した。
量子干渉効果を用いて、この素子の磁気伝導特性を測定した。印加するゲート電圧によって、スピン緩和がどのように変調するかを示したものである。この結果、スピン緩和時間が発散的な挙動を示す異なる2つのゲート電圧があることが分かった。
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