ARM Researchの講演内容を紹介してきたシリーズ。完結編となる今回は、ARMが「スーパーメモリ」と呼ぶ“理想的なメモリ”の仕様を紹介したい。現時点で、このスーパーメモリに最も近いメモリは、どれなのだろうか。
国際会議「IEDM」のショートコースで英国ARM Reserch社のエンジニアRob Aitken氏が、「System Requirements for Memories(システムがメモリに要望する事柄)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第16回である。完結編である今回は「理想のメモリ」を論じる。
現在の半導体メモリ技術で良く使われているのは、DRAM技術とNAND型フラッシュメモリ(以下、NANDフラッシュ)技術、SRAM技術だろう。DRAM技術とNANDフラッシュ技術は単体のメモリとして使われることが多い。一方、マイクロプロセッサやマイクロコントローラー(マイコン)、SoC(System on a Chip)などが内蔵するワークメモリ(埋め込みメモリ)には、SRAM技術が標準的に使われている。
これら既存のメモリ技術のそれぞれには異なる長所と短所がある。長所と短所の違いが応用分野を決めているともいえる。
半導体メモリ技術を大きく分ける特性に、データ保持特性がある。電源をオンにして半導体メモリを動かし、データを書き込んだとしよう。それから電源をオフにする。このとき、書き込んだデータが消えるメモリ技術と、書き込んだデータが残るメモリ技術の両方が存在する。データが消える性質を「揮発性」と呼び、このような性質を備えたメモリを「揮発性メモリ」に分類する。そしてデータが残る性質を「不揮発性」と呼び、このような性質を備えたメモリを「不揮発性メモリ(Nonvolatile Memory)」に分類する。
先ほど採り上げた3種類のメモリ技術では、SRAMとDRAMが揮発性メモリ、NANDフラッシュが不揮発性メモリとなる。
SRAMはコストを除くと、完璧に近いメモリである。書き込みと読み出しがともに高速であり、動作時の消費電力は低く、低い電源電圧で動作し、製造工程はCMOSプロセスと互換性がある。SRAMの完璧さを損なう最大の要因は、記憶容量当たりの製造コストが高いことだろう。最大ではないが、用途によっては無視できない問題となるのが、リーク電流の大きさだ。
製造コストとリーク電流でSRAMに比べて優位に立つのが、DRAMである。記憶容量当たりのメモリセル面積は、SRAMの20分の1以下で済む。電源電圧は低く、動作時の消費電力はそれほど高くはない。DRAMが抱える最大の問題は、製造工程がCMOSロジックと違うことだろう。電荷を一時的に保存する巨大なセルキャパシターが、CMOSロジックとの混載を拒む。
唯一のメジャーな不揮発性メモリであるNANDフラッシュは、記憶容量当たりの製造コストで圧倒的に優位に立つ。読み出しの速度は高く、不揮発性なのでリーク電流をゼロにできる。ただし、動作モードは独特であり、高い電源電圧を必要とし、製造工程はCMOSロジックとかなり違う。NANDフラッシュもまた、CMOSロジックとの混載は難しい。さらに、データ書き換え回数に制限があるという問題を抱える。長寿命のNANDフラッシュでも、書き換えの保証回数は10万回にとどまる。つまり、頻繁にデータを書き換える用途(例えばデータバッファ)には使えないことを意味する。
そこで次世代の理想的な半導体メモリに要求されるのは、「不揮発性SRAM」あるいは「不揮発性DRAM」といったメモリになる。ARMではこのような理想的なメモリを「スーパーメモリ(Super Memory)」と呼んでいる。
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