STT-MRAMを解説するシリーズの2回目となる今回は、STT-MRAMにおける論理値(「0」か「1」か)の判別方法やメモリアレイセルの構造などを説明する。
国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第2回である。
前回は、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)のバックボーンとなる学問領域「スピントロニクス」を説明するとともに、物質の磁化がどのようにして生じるかを解説した。今回はSTT-MRAMの概要と特徴、それから応用の可能性を論じる。
講演でDevolder氏は、STT-MRAMの概要を1枚のスライドにまとめて見せた。4つの図面をひとまとめにしたもので、電気・電子や半導体などの出身者にはかなり唐突である。そこで少し説明を加えながら、概要を解説しよう。
左上の図面は、記憶素子となる磁気トンネル接合(MTJ)の概念図(3層構造)。赤い層が、磁化の方向を変えられる層(自由層、フリー層、記憶層などと呼ぶ)、黒い層がトンネル層(絶縁層、非磁性層などとも呼ぶ)、青い層が、磁化の方向が常に一定の層(固定層、参照層などと呼ぶ)である。
この3層構造を上下に貫くように電流を流し、抵抗を測定することで情報の値を読み出す。自由層と固定層の磁化の向きがそろっている(「平行状態」と呼ぶ)と、抵抗値は低くなる。これが低抵抗状態(論理値は「0」)である。自由層と固定層の磁化が反対方向にある(「反平行状態」と呼ぶ)と、抵抗値は高くなる。これが高抵抗状態(論理値は「1」)である。なお、スライドの図面は平行状態と反平行状態での抵抗値の説明が逆になっており、誤りである可能性が高い。
左下の図面は、メモリセルの断面構造である。下の橙色はトランジスタであり、その上に桃色の金属配線層が2層あり、金属配線層の間に磁気トンネル接合(MTJ)が存在する。つまり、1個のトランジスタ(1T)と1個の磁気トンネル接合(1MTJ)で1個のメモリセルを実現できる。
右上の図面は、メモリセルアレイの構造を示す。ワード線の金属配線とビット線の金属配線の間に、磁気トンネル接合(MTJ)が2次元マトリクス状に並ぶ。特定のワード線と特定のビット線を選択することで、情報を読み出す(あるいは書き込む)MTJ(赤い色の部分)を選択する。
右下の図面は、電子スピンを注入することによってMTJの自由層で磁化反転を起こす(情報を書き込む)様子をごく簡単に説明したもの。MTJの直径を100nm以下に微細化できることが大きな特徴である。
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