次世代不揮発メモリの候補の1つに、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)がある。データの読み書きが高速で、書き換え可能回数も多い。今回から始まるシリーズでは、STT-MRAMの基本動作やSTT-MRAが求められている理由を、「IEDM2015」の講演内容に沿って説明していこう。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する国際会議「IEDM」では、カンファレンスの前日に「ショートコース(Short Course)」と呼ぶ1日間のセミナーを開催している。2015年12月のIEDM2015では、「メモリ技術が支える未来のシステム(MemoryTechnologies for Future Systems)」と題したショートコースが開催され、1日間で5つの講義が実施された。
5つの講義の最後は、次世代メモリとして期待される「STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)」の関する基礎講座だった。講師はフランスUniversite Paris-Sud(パリ第11大学)でCNRS Research AssociateをつとめるThibaut Devolder博士である。講演タイトルは「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」。STT-MRAM技術を基礎から解説した講演はあまり多くない。そこで今回から、Thibaut Devolder氏の講演概要をシリーズとしてお届けする。
講演のシナリオは以下のようなものである。まず、なぜSTT-MRAMが必要なのかを述べる。続いて、STT-MRAMの動作原理を説明する。ここまでが講演の前半である。講演の後半では、STT-MRAMのメモリセルを構成する基本素子「磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnneling Junction)」を解説する。はじめに、MTJの重要な機能である「磁化反転」を担う「自由層(free layer)」を詳述し、それから、その他の磁気層を説明する。
なお筆者を含めた電気・電子工学系や半導体工学系などの出身者にとって、磁気や磁性、量子力学などに関する概念や用語などはあまりなじみがない。そこで本シリーズでは理解を助けるため、Devolder氏の講演概要を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
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