磁気メモリにおけるデータ書き換えの基本原理を理解するためにも、「強磁性体の交換相互作用」を初歩の初歩から説明する。
国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第4回である。
前回は、磁気記憶の基本原理である磁性体(強磁性体)の交換相互作用(exchange interaction)と磁気異方性を説明するとともに、物質の磁性による違いを解説した。今回は、強磁性体の交換相互作用を初歩の初歩から説明する。
強い磁気を帯びている強磁性体のかたまりが、中空に存在している状態を考える。強磁性体内部の原子磁気モーメントはすべて同じ方向にそろっており、結果として自発磁化が生じている。この強磁性体の近くに、コイルを置く。コイルには電流は流れていない。これが初期状態である。
続いてコイルに電流を流し、電流誘起の外部磁界を発生させることを考える。
外部磁界をH、強磁性体の磁化(磁気モーメント)をMとする。強磁性体と外部磁界の相互作用の大きさは「ゼーマンエネルギー(Zeeman energy)」Eで定義される。EはベクトルHとベクトルMの積(ベクトル積)である。
初期状態から外部磁界Hを発生させたとき、磁化Mと外部磁界Hは反対方向(反平行)になったとしよう。ゼーマンエネルギーに相当するエネルギー量だけ、元の磁化のエネルギー状態が持ち上がる。すると低いエネルギー状態である、外部磁界Hと同じ方向(平行)に強磁性体の磁気モーメントは磁気異方性エネルギーを超えて反転する。
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