単一の水素原子が作り出す磁気モーメントは、原子よりも広い範囲に広がることが特徴だ。この性質を利用すると、グラフェン面の上に「磁石の絵」を描くことができるかもしれない。
研究チームは、六角形に結び付いた炭素原子を2種類に分類した。グラフェンシート全体を三角形からなる2種類の部分束(三角形からなる網)が重なったものだと捉えたのだ。それぞれの部分束をA、Bとしよう。2つの水素原子を同じ部分束、例えばA上に配置すると磁気モーメントは足し合わされると予測(図3)。実際にそのような配置にした部分を観察すると、理論通りの結果が得られた。
次に2つの水素原子をA上とB上に配置。すると磁気モーメントが打ち消し合って、磁性は消えた。位置によって磁性をオンオフできたことになる。興味深いことに、水素原子同士の距離が原子の直径よりかなり離れていても、部分束による効果が生じるという。
以上の性質を応用すれば、ガラス面上に形成した磁性体薄膜上に情報を記録するハードディスクのように、グラフェン面上に水素原子を配置して動作する超高密度の「グラフェン記憶装置」ができるはずだ。
記憶装置以外の応用も可能だろう*3)。CIC nanoGUNEに所属する研究者であり、Science誌に掲載された論文の著者の1人であるMiguel Moreno Ugeda氏は、電子のスピンだけを情報伝達に用いるスピントロニクスへの応用が期待できると指摘している。磁気モーメントはスピンと同じように扱うことができる。水素原子を追加する位置によって、磁気モーメントをオンオフできるということは、ある程度の距離をはさんだ通信が可能だということになるからだ。
*3) 今回の論文が掲載されたScience誌の同一号には、ニューハンプシャー大学理学部に所属するS.M.Hollen氏とオハイオ州立大学理学部に所属するJ.A.Gupta氏の寄稿が掲載されている(Painting magnetism on a canvas of graphene)。両氏は理論計算上、水素を付加したグラフェンはワイドバンドギャップ半導体に変わることを指摘している。
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