磁気記憶の高密度化手法と、高密度化に伴う本質的な課題を解説する。磁気記憶は、高密度化と低消費電力化で矛盾を抱える――。
国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第6回である。
前回は、磁気を利用して記憶したデータの値を不安定にする要因と、10年以上の期間にわたってデータを安定に保持するための条件を説明した。今回は、磁気記憶の高密度化手法と、高密度化に伴う本質的な課題を解説する。
磁気記憶(あるいは磁気記録)の密度(面密度)を高めることは、磁性体粒子の体積Vを小さくすることに等しい。体積Vを小さくしながら、磁気異方性エネルギーΔE(=KV)を同じ大きさに維持するには、磁気異方性定数Kを大きくする必要がある。前回に説明したようにΔEは熱エネルギーよりも、はるかに大きな値を維持しなければならないからだ。
一方、データ書き換えの消費電力をなるべく低くするという観点からは、磁気異方性定数Kはなるべく小さいことが望ましい。なぜならば、磁気異方性定数Kが大きくなるほど、書き換えに必要な磁界が大きくなり、したがって消費エネルギーが大きくなるからだ。
このように磁気記憶では、高密度化と低消費電力化は原理的には矛盾すると分かる。さらに、高速動作や読み出し動作などの要項が磁気記憶には加わる。例えば、読み出しの感度を上げることは高速化と矛盾する。これらの相反する要素を高い水準で妥協させるのが、磁気記憶における技術開発の主な目的となる。
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