成瀬氏は、小型の脳波計と誰の頭にもフィットするヘッドギアも開発している。脳波計はドライ電極に対応し、8つの脳波チャンネル数を持つ。無線(Bluetooth 2.0)で接続するため、スマートフォンで計測結果を見ることが可能だ。NICTが開発した脳波計をもとに、ミユキ技研が既に製品化しているという。これらの研究成果により、まだ最終形態ではないが、脳波計測のウェアラブル化が大きく進んだとしている。
成瀬氏は、「脳波計測が簡単にできるようにはなったが、これだけでは計測結果がどのような意味を持つかが分からない。このデータをヒューマンインタフェースとして、どのように活用するかが重要になる」と語る。
脳科学を使ったヒューマンインタフェースの研究は、今までも「Brain Machine Interface」として行われてきた。脳の情報を機械に伝えるという意味だが、これまでは体の不自由な人々のコミュニケーション支援としての研究が多かった。ジェル状の導電性ペーストを用いた脳波計測は、医者などの専門家がいなければ行えなかったからだ。
ウェアラブル脳波計によって、病院以外でも脳波が計測できるようになる。将来的には、脳の無意識下の情報、つまり、“伝えたくても伝えられない情報を人に伝える”ことが可能になるとする。成瀬氏は、これを「Brain-to-Human Interface」と呼ぶ。
Brain-to-Human Interfaceの研究成果として、成瀬氏は「脳波を利用したマーケティング法」を挙げる。被験者に8人の女性タレントの写真を見てもらい、「女らしい」「面白い」などの印象をボタンで選択してもらう実験を行った。ボタンを押す瞬間の脳波を計測することで、脳が抱いているイメージを解析するといった流れである。
ボタンを選択する主観評価と脳波評価を比較すると、「女優C」が最も女らしいと評価され、「バラエティタレント」が最も女らしくないと評価されていることが分かる(下記資料を参照)。特徴的なのは、面白いでは主観評価と脳波評価の結果が違っている点だ。主観評価では、「芸人」と「バラエティタレント」を面白いと評価するのに対して、脳波評価では「女優A」「女優C」としている。
成瀬氏は、「この違いがどのような意味を持つかを検証したところ、脳波評価は好感度と比例していた。そもそも面白いという言葉は多義性があり、狭い意味では“お笑い的な面白い”、広い意味では“人間的に面白い“がある。主観評価ではお笑い的な印象、脳波評価では人間的に面白いという結果が出ているのが、私たちの考察である」と語る。
同研究成果により、アンケート調査とは違う情報を脳波から引き出せることが分かったことになる。同研究は、NTTデータ経営研究所が主催している応用脳科学コンソーシアムにおいて、実証実験が現在も行われている。また、他にも「脳波を利用した外国語学習法やワークロードの定量化に関する研究が進んでいる」(成瀬氏)とした。
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