米大学の研究チームが、紙を使った微生物燃料電池を開発したと発表した。細菌とフェリシアン化カリウムを使うもので、試作品では1.3μWの電力を生成したという。
米アイオワ州立大学(Iowa State University)の研究グループが、紙を使った微生物燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)を開発した。毛細管現象を利用し、システムを介して液体を誘導することができるため、外部電力が不要だという。
紙ベースのMFCの試作品を5日間動作させたところ、1.3μWの電力と52.25μAの電流を生成することができ、電力密度は約25W/m3だったという。この結果から、紙ベースのMFCは、外部電力を全く使わず、環境に優しい方法で電力を生成できるということが明らかになった。同大学で機械工学部准教授を務め、論文の上席著者であるNastaran Hashemi氏は、「デバイス全体に液体が流れるようにするための電力が不要であることから、MFCで生成される電力は全て、有効利用できるということになる。今後、MFCをさらに進化させ、その用途を拡大していく上で、極めて重要な点だ」と述べている。
MFCでは、還元細菌であるシューワネラ・オネイデンシス(Shewanella Oneidensis)MR-1(上図の黄色部分)とフェリシアン化カリウム(上図の白色部分)をチャンバーに流入させることができる。2つのチャンバー間にプロトン交換膜を配置して、2種類の液体を分離し、生体触媒によって分解された陽極液の中に正電荷を持つイオンを解放して、アノードからカソードへと流れるようにする。
今回の試験では、炭素布の上に生物膜(バイオフィルム)を形成したところ、生化学反応が起こり、電流が生成されたことが明らかになった。生物膜のサイズや厚みが大きくなると、電流の生成量も増加することから、MFCで電流を生成する上で、生物膜が極めて重要な役割を担っていることが分かる。
個々の細菌性細胞は、さまざまな酵素触媒反応を伴う複雑なプロセスの中で、電子が豊富な物質を放出する。これらの電子は、数々の電子伝達モードの1つを介して、アノードまで自由に移動する。今回の試作版では、個々の細菌と電極が直接接触しても、電流の生成にはほとんど影響がなかったため、媒介で電子が伝達されているとみられる。生物膜は、電極で分子の吸着を助ける働きをすることから、電力密度が高いMFCを実現する上で重要な役割を担う存在だといえる。
今回のデモにより、MFCが長時間動作できることが示された。MFCの用途を拡大していく上で大きな進歩だといえる。
同大学の研究チームは現在、電圧の出力をよりうまく制御して、コストの低い化学物質と同程度の定電流を生成できるようにするための方法を模索している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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