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熱を流すだけで金属が磁石になる現象を発見「非平衡異常ホール効果」と命名(1/2 ページ)

東北大学金属材料研究所のダジ ホウ氏、齊藤英治氏らは2016年7月、通常の状態で磁化を持たない金属が、熱を流すだけで磁石の性質を示す現象を発見したと発表した。

» 2016年07月29日 13時30分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]

スピンエレクトロニクス研究に貢献へ

 東北大学金属材料研究所のダジ ホウ氏、齊藤英治氏らは2016年7月、通常の状態で磁化を持たない金属が、熱を流すだけで磁石の性質を示す現象を発見したと発表した。

 この現象は、単位面積当たり100万分の1電磁単位という微弱な磁化を電気信号として観測できることから、熱平衡状態での新しい磁化測定法として利用できるという。また、熱と磁化との関係の理解が深まり、熱を利用したスピンエレクトロニクスの研究が進み、日常生活で捨てられている熱を削減、利用することが期待される。

注目を集める電子スピンの役割

 磁化を持つ物質「磁石」の発現は従来、電子が持つ「スピン」と呼ばれるミクロな自転運動の軸がそろうことにより、マクロな磁気的性質(S極とN極)が生じるからと理解されてきた(図1a)。回転運動の軸がそろうと、軸は反転しなくなり、磁性体に特異な現象を引き起こす。特異な現象の例としては、異常ホール効果が挙げられる。

 電流が流れている物質に対して、電流と垂直な方向に外部から磁場を加えると、電子が磁場による一方向の力を感じて曲げられる。その行き着く先に電子がたまることで、電流の流れと磁場の向きの両方に垂直な方向に電圧が生じる現象がホール効果だ。

 異常ホール効果では、磁石中の磁化に垂直な方向に電流を流したときに、磁化が外部から加える磁場と同じ働きをすることで、電流の流れと磁化の向きの両方に垂直な方向に起電力が生じる。そのため、磁化の発現を確かめる有用な手法の1つとなっている。

図1:電子スピンの一例 (クリックで拡大) 出典:JST

 一方、熱非平衡状態における電子スピンの役割が、近年注目を集めているという。齊藤氏らが発見したスピンゼーベック効果*)では、磁石ではない金属の薄膜を積んだ磁性体中に温度勾配を作ると、磁性体中をスピンの流れが伝わって隣り合う金属へ流れ込み、逆スピンホール効果によって電圧に変換される(図1b)。この現象は理論的に、熱非平衡状態で生じる磁化が鍵となり起こると考えられている。しかし、非平衡磁化の存在はこれまで実験で確認されたことがなく、有用な手法がなかったとする。

*)スピンゼーベック効果:磁性体に温度差を与えることによってスピン角運動量の流れ(スピン流)が生成される現象で、齊藤英治氏らが2008年に発見した。スピントロニクス分野において、汎用性の高いスピン流源としての応用が期待されるとともに、スピン流と垂直な方向に起電力が発生する現象(逆スピンホール効果)と組み合わせることで、熱電変換素子としての応用可能性が示唆されている。

温度勾配で非平衡磁化が生じることを証明

 同研究グループは今回、絶縁性の磁石であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)薄膜上に、磁石ではない金属の代表例として、金(Au)薄膜を積んだ試料を用意。同試料は、YIG薄膜の側もしくは金薄膜の側を熱することで、温度が低い側から高い側に向かってそれぞれの膜中に温度勾配が生じる(図2)。

図2:非平衡磁化の概念図 (クリックで拡大) 出典:JST

 温度勾配が生じると、熱は温度の高い側から低い側に流れる。この状態で、外部から磁場を加えてYIG薄膜中の磁化を垂直方向に向け、金薄膜に電流を流した(図3a)。金薄膜中に磁化が生じていれば、異常ホール効果と同様の原理で、電流と磁化の向きの両方に対して、垂直な方向にホール電圧が発生すると予想したとする(図2)。

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