Silicon Laboratories(シリコン・ラボラトリーズ)は2016年7月、無線センサー端末などIoT(モノのインターネット)端末のプロトタイプを短期間、低コストで実現できる開発キットを発売した。IoTシステムのプロトタイプ構築用途やホビーユーザーなど幅広く展開していく。
Silicon Laboratories(シリコン・ラボラトリーズ/以下、シリコンラボ)は、無線センサー端末などIoT(モノのインターネット)端末のプロトタイプを短期間、低コストで実現できる開発キット「Thunderboard React」(サンダーボード・リアクト)を発売した。無線/マイコンモジュールに、各種センサー、アンテナ、電源を備えたボード、ソフトウェアや連動スマートフォンアプリ、クラウド環境も無償提供され、購入直後から無線センサー端末として動作する。「IoTシステム開発の初期段階でのエッジ端末の開発、調達という問題を解決する開発キット」(同社)という。
シリコンラボは近年、事業成長領域として“IoT”を掲げ、IoTの末端を構成するエッジ端末やデータセンターに向けた製品事業の強化を進めている。特にエッジ端末向けでは、2012年にZigBee用RF IC大手のEmberを、2013年に低消費電力マイコン「Gecko」で知られるEnergy Microを買収するなど、積極的なM&Aを展開。2015年にもBluetoothに強いBluegiga Technologiesを買収し、IoTエッジ端末のキーデバイスであるマイコン、RFデバイスの扱いを広げてきた。
その結果、マイコン、RF、センサー製品で構成するIoT事業が売上高の約4割を占め、シリコンラボの主力事業にまで成長した。「IoTで一層必要性が増す」というサーバなど通信インフラ機器向け事業(タイミングICや絶縁デバイスなどを展開)を含めれば、「IoT関連売上高は、全社売上高の6割を占める」(日本法人社長 深田学氏)とし『IoTのシリコンラボ』といえるような事業ポートフォリオを構築。「今後も、IoT向けの注力を加速させる方針」(同氏)だ。
そうした中で、今回、発売に至った開発キット・Thunderboard Reactは、現在のシリコンラボが持つIoTエッジ端末向け製品、技術を集積した象徴的な製品の1つといえるだろう。開発キットのメインであるボードは、44×25mmサイズとボードと呼ぶよりも“モジュール”と呼ぶ方がふさわしいような小型ボードだが、「IoTエッジ端末」に必要な構成要素を全て詰め込んでいるのだ。
キーデバイスであるマイコン/RF部は、このほどサンプル出荷を開始したばかりのBluetoothスマートモジュール「BGM111」で構成する。このBGM111のサイズは、12.9×15×2.2mmとBluetooth 4.2対応モジュールとしてはかなり小型だ。そして、この小型化を可能にしたのが、BGM111の核を成すマイコン「Blue Gecko」だ。
Blue Geckoは、ARM Cortex-M4ベースの最大動作周波数38.4MHzのフラッシュメモリ内蔵マイコンながら、ペリフェラルとしてBluetooth 4.2対応RF回路を持つ。通常、マイコンの外付けで必要なBluetooth用RF ICが必要なく、マイコンにアンテナを付けるだけで、Bluetooth対応が済んでしまうというもの。シリコンラボでは、Blue Geckoを「BluetoothスマートSoC(System on Chip)」と呼んでいる。BGM111は、このBlue Geckoに、チップアンテナ、外付け部品を実装したモジュールであり、今回発売したThunderboard Reactのボードは、BGM111に、IoTエッジ端末で必要になるデバイスを付け加えた製品だ。
IoTエッジ端末で必要になるデバイスとしては、シリコンラボが展開する温湿度センサーやオプティカルセンサー(照度/近接/紫外線センサーなどとして動作可能)の他、ホールセンサー、6軸加速度/ジャイロセンサーといったセンサーを搭載。他にもLEDやスイッチを備え、コイン電池(CR2032)1個で動作する。
Thunderboard Reactには、ボードとともに、ボード動作に必要なソフトウェア一式も同梱される。Thunderboard ReactボードとBluetoothでつながる先のスマートフォン用アプリも無償で提供(iOS用/Android用)。開発の手間など一切なく、Thunderboard Reactボードを動作させ、スマホから動作状況や制御が行える。さらに、センサーから取得したデータを最大30日分記録し、グラフ表示などの解析が行えるクラウド環境も無償で利用可能だ。
ここまで“すぐに使える”にこだわったThunderboard Reactを製品化した理由について日本法人IoTスペシャリストを務める水谷章成氏は、「まずはIoTを体験してもらい、IoTの裾野を広げたいという思いがあったから」と説明する。
「無線、センサーを使ったIoTを実現したいという潜在需要は大きい一方で、無線やセンサーを使いこなすための“入り口”は少ない。無線の知識がなくても、Thunderboard Reactがあれば、取りあえずIoTを体験したり、IoTシステムのプロトタイプを構築したりできる。IoTの“入り口”として、幅広い層へ販売していきたい」(水谷氏)
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