2016年、Intelはモバイル事業からの撤退を決めるなど方針転換を行った。そうした方針転換の真の狙いを、Thunderbolt用チップ、そして、7年前のTSMCとの戦略的提携から読み取ってみたい。
AppleとIntelが共同開発を行い、10Gビット/秒(bps)の通信速度を実現したインタフェース“Thunderbolt”。2011年発売のMacBook Proに採用され、多くの周辺機器にも搭載されてきた。しかし2015年発売のMacBookではThunderbolt端子が消えた。新たに“USB 3.1/Type-Cコネクター”が採用されている(図1)。
Thunderboltは2011年の初代が10Gbps、2013年の2代目で20Gbps、2015年の3代目で40Gbpsの通信速度を実現している。かつて「Light Peak」と呼ばれた技術の応用完成形がThunderboltであった。Light Peakはマルチプロトコル仕様であったが、Thunderboltでは、PCI Express 2.0とDisplay Port 1.1aを対象としてスタートした。3代目ではUSB 3.1もプロトコル対象に加わっている。
Thunderboltのチップ供給を行うメーカーは“Intel”だけであった。Thunderbolt用チップのパッケージにはIntelのロゴを示す“I”のマークがある(図2)。MacBook AirなどThunderbolt端子を有する機器には必ず、Intel Thunderboltチップが使われていた。
話は少し逸れるが2009年3月、図3のように“IntelとTSMC”は突如、戦略的提携を行った。当時は大きなニュースになった。
IntelとTSMCの戦略的提携……。このニュースはその後、解消の話もなく、成果も一切語られることなく、既に7年の月日が過ぎようとしている。この7年、半導体業界はスマートフォンブームを迎え、その成長もピークが過ぎようという今を迎え、さらには半導体業界全体は大規模再編が起こり、新たな時代へと移り始めている。
TSMCはQualcommなどのスマートフォン用チップの製造に広く活用され躍進した。一方のIntelはスマートフォンに押され、主力のPC向け半導体事業の落ち込みを味わっている。IntelとTSMCにとって、“両極端の7年間”であったと言えなくもない。2009年の戦略的提携の発表時には「“Atomプロセッサ”の普及に提携を生かす」とコメントされている。しかしAtomプロセッサ製造がTSMCのラインに移されたというようなニュースも、実績もない。
IntelとTSMCが提携した7年前の業界風景は、次の通りだ。
AppleのiPhoneがスマートフォンという新規市場を完全に作り出した。NokiaやMotorola、RIMといった老舗メーカーの売れ足がピタッと止まってしまった。恐らく老舗側では何が起こっているのか実際には分からない状況であっただろう。今までと同じ販売チャネルで、よりハイグレードの携帯電話機を作っても全く売れない。新規に参入したiPhoneのみがユーザーと話題をさらっていく。恐怖以外のナニモノでもなかったではなかろうか。
iPhoneに搭載されるプロセッサはIntelでもTSMCでもなく、Samsung Electronics製。しかも当時はあまり主流ではなかった「CPU+GPU」のヘテロ、メディアプロセッサ。Samsungへの対抗の意味も「Intel+TSMC」は含んでいたものと思われた。いずれにしてもAppleが呼び起こしたスマートフォンは上記のような提携を生み出すほどのインパクトを持っていた。しかし“Atom on TSMC”は実現されず、IntelとTSMCの連携はプロセッサでは身を結ばなかった……。
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