送電ICは、アンテナコイルに交流電流を印加するブリッジ回路を駆動して、受電側が必要とする送電電力値になるように制御する。I2Cインタフェースを搭載していて、これによって外部EEPROMデータを読み取り、レジスタを書き換えることで、温度や充電電流などのパラメータ値を変更できる。さらに、外部のマイコンと接続することでアプリケーションに合わせたカスタマイズも可能だ。なお、モバイルバッテリーなどから電源を供給できるように、送電ICの電源電圧は5V単一となっている。
ルネサスによれば、現時点では、小電力機器向けのワイヤレス充電用受電IC/送電ICは、ないという。仮にスマートフォン充電向けの受電IC/送電ICを流用するとなると、充電電流が大き過ぎる。数百ミリアンペアほど流れてしまうからだ。そのため、発熱の問題が出てきてしまう。さらに、アンテナコイルのサイズも大きいので、機器に搭載できない場合もある。やはり、補聴器やウェアラブル機器には、それ専用の受電IC/送電ICが必要になるのだ。「ウェアラブル機器に特化したワイヤレス充電用ICは、まだ市場にはない」(ルネサス)
ルネサスの受電IC/送電ICは、QiやAirfuelといった標準規格には準拠していない点も特徴だ。ルネサスは「そもそも、これらの規格が策定された目的は、電池の消耗が速いスマートフォンなどを出先でもケーブル無しで充電できるよう、考えられたもの。(カフェや商業施設など)どこでも充電できるようにするには、やはり規格が必要だ」と説明する。だが先述した通り、一方で規格の乱立が足かせとなり、普及が進まないという側面もある。さらに規格に準拠していることをうたうとなると、認証試験も必要になり、時間とコストが掛かる。「ウェアラブル機器は電池が長時間持つので、自宅で充電するケースがほとんどだと想定している。そのため、独自規格でまったく問題ないと考えている」(同社)
受電IC、送電ICともに2016年11月からサンプル出荷を開始する。サンプル単価は受電IC、送電ICともに1000円。2017年第1四半期(1〜3月)には量産対応が可能になる予定だ。
受電IC、送電ICを搭載した評価キットも用意している。現在のところ、同評価キットを販売する予定はなく、貸し出しで対応するという。評価キットには、レジスタを書き換えてパラメータをセットするためのGUI(Graphical User Interface)ソフトウェアが付属している。
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