今回からは、国際学会で語られたSanDiskの抵抗変化メモリ(ReRAM)の研究開発動向について紹介していく。まずは、約60年に及ぶ「不揮発性メモリの歴史」を振り返る。
前回までは、半導体メモリの研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(IMW:International Memory Workshop)」のショートコース(2016年5月15日)から、Micron Technologyの講演概要をご報告した。今回以降は、SanDiskによる抵抗変化メモリ(ReRAM)の研究開発動向に関する講演概要をご紹介する。講演者はスタッフエンジニアのYangyin CHEN氏、講演タイトルは「ReRAM for SCM application」である。
講演タイトルにあるSCMとはストレージ・クラス・メモリ(storage class memory)の略称で、性能的に外部記憶装置(ストレージ)と主記憶(メインメモリ)の間に位置するメモリとされる。ここで性能とは、メインメモリよりもコスト(記憶容量当たりのコスト)が低く、ストレージよりも高速であることを意味する。
SCMは、次世代の半導体メモリに最も期待されている用途である。SCMの位置を占める次世代半導体メモリの候補は主に3つ。抵抗変化メモリ、磁気メモリ、相変化メモリである。いずれも不揮発性メモリであるとともに、大容量化を実現可能とされる。
本題である「抵抗変化メモリ(ReRAM)」に入る前に、CHEN氏は過去に開発された半導体不揮発性メモリを振り返った。
半導体不揮発性メモリの歴史は、プログラマブルなROM(Read Only Memory)、つまりPROM(Programmable ROM)から始まる。PROMの発明者は米国の軍用電子機器開発企業、America Bosch ArmaのWen-Ting Chow氏で、基本原理を開発したのは1956年と約60年前のことだ。当時はPROMという名称は存在せず、「constant storage matrix」と呼ばれていた。
1971年には、Intelが紫外線消去型EPROM(UV-EPROM:Ultra-Violet Erasable Programmable ROM)を発明する。UV-EPROMは電子機器の開発工程においては画期的な製品で、1990年代にフラッシュメモリが登場するまで、マイクロコントローラー(マイコン)・システムのファームウェア開発工程を担っていた。マイコンのプログラム格納用メモリとしては、ユーザーが内容を書き換えられる唯一の不揮発性メモリだったからだ。
1979年にIntelは、電気的にデータを書き換え可能な不揮発性メモリ、EEPROM((Electrically Erasable PROM)を開発する。紫外線消去型EPROMはデータの消去に手間がかかるのが、大きな弱点だった。データの消去には強力な紫外線を短くとも30秒間、照射する必要があったからだ。さらにデータの消去は全ビットの一括消去で、部分的にデータを書き換えることはできなかった。
これに対してEEPROMは、バイト単位でデータを電気的に書き換えることができるという、素晴らしい特徴を備えていた。しかし、UV-EPROMを置き換えることはできなかった。その大きな要因は、記憶容量当たりの製造コストがUV-EPROMよりもはるかに高かったことにある。
UV-EPROMのメモリセルはわずか1個のMOSFETで構成されており、当時としては最も高密度の半導体メモリだった。ところがEEPROMは、記憶用MOSFETとセル選択用MOSFETの2個のトランジスタでメモリセルを構成していた。さらに、記憶用MOSFETには極めて薄い酸化膜を局所的に形成する必要があり、この酸化膜の製造がかなり難しかった。この結果、EEPROMの記憶容量当たりコストはUV-EPROMよりも大幅に増加した。
もちろん、ユーザーは電気的に書き換えられる不揮発性メモリを待ち望んでいた。しかし開発予算が決められているなかで、EEPROMの価格はUV-EPROMを置き換えられるほどには下がらなかった。
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