富士通研究所は2016年11月7日、人工光合成で太陽光のエネルギー変換反応の効率を高めることができる新しい材料技術を開発した。従来技術で開発した光励起材料に比べて、利用可能な太陽光の光量が2倍以上に増え、材料と水の反応表面積は50倍以上に拡大することが可能となる。この結果、電子および酸素の発生効率を100倍以上に改善できることを確認したという。
富士通研究所は2016年11月7日、人工光合成で太陽光のエネルギー変換反応の効率を高めることができる新しい材料技術を開発したと発表した。同技術を応用すると、電子および酸素の発生効率を従来に比べて、最低でも100倍向上できることを確認した。
人工光合成は、太陽光と水と二酸化炭素(CO2)を用いて、酸素と水素および有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する技術である。ところが、これまでの技術では太陽光(可視光波長)の中で利用できる波長領域が狭く、化学反応に十分な電流量を取り出すことが難しいなど、実用化に向けていくつかの課題もあった。
同社は、従来のフレキシブル実装シート上にキャパシターなどの受動素子を形成するための電子セラミックスの成膜法「ナノパーティクルデポジション(NPD)」技術を改良し、これらの課題を解決した。今回は、光励起材料の原料粉末をノズルで吹き付ける工程において、原料粉末を薄い板状に破砕しながら、基板上に積層させる新たな薄膜形成プロセス技術を開発した。これにより、原料粉末は成膜後に原子レベルのひずみを持つ結晶構造となる。このような組成とすることで、太陽光のエネルギーを吸収できる最大波長は、従来の490nmに対して、新技術では630nmまで広がり、利用可能な太陽光の量を2倍以上に増大させることに成功した。
形成した薄膜は、ミクロ/マクロの欠陥がないため結晶性が良く、材料中の粒子間で優れた電子伝達特性を示す構造になっている。このため、太陽光で励起された電子を効率よく電極に伝えることができるという。
薄膜の表面構造は、材料と水との反応表面積が広い。その上、材料結晶中では電子密度の高い結晶面が膜表面に規則正しく形成されている。この結果、水と光の相互反応を大幅に向上させることが可能になった。なお、材料内部の構造解析は東京大学の幾原研究室と共同で行っている。
新技術を用いると、従来技術で開発した光励起材料に比べて、利用可能な太陽光の光量が2倍以上に増え、材料と水の反応表面積は50倍以上に拡大することが可能となる。この結果、電子および酸素の発生効率を100倍以上に改善できることを確認した。
今後は、光励起材料とプロセス技術のさらなる改善と改良に取り組み、明反応の電極について特性の向上を図る。同時に暗反応部(二酸化炭素還元反応)や全体システムの技術開発を進め、人工光合成技術の早期実用化を目指す考えである。
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