ルネサス エレクトロニクスは、ドイツ・ミュンヘンで開催中の「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)に出展し、車載情報システム向けハイエンドSoCや、ADAS向け開発キットのデモを披露している。車載半導体メーカーのM&Aが続く中、ルネサスの強みは何なのか。
ルネサス エレクトロニクスは、ドイツ・ミュンヘンで開催中の「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)で、車載情報システム向けSoC(System on Chip)「R-Carシリーズ」の第3世代品でハイエンドの「R-Car H3」や、ADAS(先進運転支援システム)アプリケーション開発キット「ADASビュー ソリューションキット」のデモを行った。ADASビュー ソリューションキットは、同年11月8日に発表したばかりである。
ルネサスにおいて車載事業は、さらなる成長を遂げるための中核となるものだ。2015年の車載半導体市場のシェアこそ、NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)に首位の座を明け渡したが、車載マイコンおよびSoCでは「世界ナンバーワンシェア」(同社)としており、2015年度の車載向けマイコン/SoCの出荷数は9億2000万個に上る。これは新車1台当たりに11個のルネサス製マイコン/SoCが搭載された計算になるという(関連記事:ルネサスが見据える2020年、車載/汎用事業の行方)。
そのルネサスにとって、欧州市場を押さえることは極めて重要だ。欧州では自動車メーカーやティア1サプライヤーの数が多く、それだけビジネスチャンスも大きいからだ。ルネサスで第一ソリューション事業本部 車載情報ソリューション事業部 事業部長を務める鈴木正宏氏は、現在、欧州市場におけるルネサスの車載事業は「絶好調だ」と述べる。
NXPやInfineon Technologies(インフィニオン・テクノロジーズ)といった強豪がひしめく欧州でルネサスが強い理由について、Renesas Electronics EuropeのAutomotive Business GroupでGeneral Managerを務めるGünther Elsner氏は、「まずは、R-Carプラットフォームのスケーラビリティ(拡張性)が挙げられる」と述べる。「これは欧州の自動車メーカーにとって、特に重要だ。彼らはローエンドからハイエンドまでの自動車に適用できるプラットフォームを求めている。ハイエンドの自動車に搭載していた機能を、数年後にローエンドやミドルレンジの自動車に適用するからだ。その時に、ソフトウェアを再利用できるなどR-Carプラットフォームが持つ拡張性は強みになる」(同氏)
Elsner氏や鈴木氏が拡張性とともに挙げるのが、R-Carの消費電力の低さである。R-Carの消費電力は、競合他社品に比べて最大5分の1ほどだという。それを可能にしているのは、CPUの負荷をオフロードするハードウェアIP(Intellectual Property)群だ。R-Carには、CPUの他に、グラフィックス処理用、ビデオ信号処理用といった専用のIPが搭載されている。ルネサスはこれを「オフロードエンジン」と呼ぶ。車載インフォテインメントシステムでは、クルマの周囲の画像を取り込んでいる時もナビゲーションシステムを表示するといったマルチタスクが要求される。R-Carはこうした複数のタスクをオフロードエンジンに分散させることでCPUの負荷を下げる。これによって処理速度が低下せず、消費電力も抑えることができる。
鈴木氏は、「Qualcomm(クアルコム)やNVIDIA、Intel、Samsung Electronics(サムスン電子)などの車載向けチップは、モバイル機器向けのチップを車載用にチューニングしたものだ。だがわれわれは車載専用のチップを設計してきた」と語る。低消費電力の鍵となるオフロードエンジンは、ルネサスが15年以上にわたりR-Carを開発する中で培ってきた技術だと、同氏は強調する。
鈴木氏によると、車載インフォテインメント向けチップでは、1つのアプリケーションを動かしている時には処理速度が落ちなくても、複数のアプリケーションを動かすと処理速度が低下し、熱が発生する場合も多いという。これは、データシートだけを見ていても分からない。システムに実装してみて初めて分かる“本当の性能”だという。
Elsner氏と鈴木氏によれば、特に欧州ではメータークラスタが、従来のような針を使ったメカニカルなものからグラフィックスで表示するデジタルのものに移行しつつあり、R-Car H3や、ミッドレンジの「R-Car M3」などが、こうした潮流に適した製品になると語った。
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