台湾半導体産業協会の専門家は、今後ムーアの法則は、「半導体の集積率の向上」というよりも、より実質的な意味を持つようになると指摘する。3次元構造やTSMCの「InFO」のようなパッケージング技術によって性能の向上を図っていくというものである。
台湾半導体産業協会(Taiwan Semiconductor Industry Association)のエグゼクティブディレクターを務めるNicky Lu氏は、「今後、“実質的なムーアの法則”の時代が到来することにより、半導体業界は利益性を回復し、再び成長を遂げることができる」とみているようだ。
同氏は、EE Timesのインタビューの中で、「半導体業界は今後、30年間にわたって成長を遂げていく。1nmプロセスが実現すれば、ムーアの法則は、(単に半導体の集積率ということではなく)より実質的なものに変化していくだろう」と述べている。
半導体業界は現在、後押しを必要としている。米国のコンサルティング会社McKinsey & Companyが2015年に発表したレポートによると、半導体業界は1995〜2008年にかけて、年平均成長率(CAGR)7%で成長を遂げ、株主へのトータルリターンは、株式市場全体の約3倍に達していたという。しかし、現在の状況は、これとは大きく異なっている。
半導体メーカーの中には、小規模メーカーを買収するなどして現在も成功を維持している企業もあるが、業界全体の成長率や売上高は減少傾向にある。
Lu氏は、「半導体業界は、年間売上高が約4000億米ドルに達すれば、1nmプロセスの実用化によって1兆米ドル規模の市場を実現し、低迷状態を打破することができる」と指摘する。同氏は、2016年11月7日に富山県で開催された「A-SSCC 2016(IEEE Asian Solid-State Circuits Conference、アジア固体回路会議)」において、「A New Silicon Way」と題する論文を発表した。同氏はその中で、「今後は、これまでの微細化の限界を超える、新世代プロセスへの移行が進んでいく」と主張し、概要を説明した。
同氏は、「既に、微細化が物理的限界に達していることが実証されている。さまざまなメーカーが、10nmプロセスの実用化に向けて取り組んでいるが、このレベルにおいて新たな線幅を実現することは不可能だ」と述べる。
このため、3次元化の技術開発が進んできた。Intelは2011年に、3次元ゲート(Tri-Gate)構造トランジスタ技術を開発し、プレーナ型トランジスタから3次元構造への移行を先導する役割を担った。ただしLu氏は、「3次元構造で0.85倍の微細化を実現しても、トランジスタ密度向上の点では、プレーナ型で0.5倍に微細化した時と同じにとどまることになる」と指摘する。
さまざまなメーカーが、こうした傾向に追随している。例えば東芝は、48層構造の3D NAND型フラッシュメモリを開発し、Appleの「iPhone 7」に搭載されている。またSamsung Electronics(サムスン電子)は、さらに一歩先を行く64層の3D NANDフラッシュを開発した。Lu氏は、「適用技術そのものは32nmプロセスだが、実質的には13nmプロセスに匹敵する性能を実現する」と指摘する。
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