今回は、抵抗変化メモリ(ReRAM)の記憶素子における電気伝導の原理について解説する。主な原理は7種類あるが、ReRAMの「高抵抗状態」と「低抵抗状態」を作り出すには、同じ原理が使われるとは限らないことも覚えておきたい。
半導体メモリの研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(IMW:International Memory Workshop)」のショートコース(2016年5月15日)から、SanDiskによる抵抗変化メモリ(ReRAM)の研究開発動向に関する講演概要をご紹介している。今回はシリーズの7回目に相当する。
抵抗変化メモリの開発動向バックナンバー: | |
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(1) | SanDiskが語る、半導体不揮発性メモリの開発史 |
(2) | SanDiskが語る、コンピュータのメモリ階層 |
(3) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの概要 |
(4) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの信頼性 |
(5) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの多様な材料組成 |
(6) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの消費電流と速度 |
(7) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの電気伝導メカニズム【今回】 |
講演者はスタッフエンジニアのYangyin CHEN氏、講演タイトルは「ReRAM for SCM application」である。タイトルにあるSCMとはストレージ・クラス・メモリ(Storage Class Memory)の略称で、性能的に外部記憶装置(ストレージ)と主記憶(メインメモリ)の間に位置するメモリとされる。ここで性能とは、メインメモリよりもコスト(記憶容量当たりのコスト)が低く、ストレージよりも高速であることを意味する。
本シリーズの6回目である前回は、過去に国際学会で発表された抵抗変化メモリ(ReRAM)のメモリセルにおける書き込み消費電流と書き換え時間を紹介した。今回は、抵抗変化メモリの記憶素子における電気伝導の主な原理を報告する。
抵抗変化メモリの記憶素子には「低抵抗状態」と「高抵抗状態」の2つの安定状態があり、これら2つの状態を実現するためには、何らかの原理に基づいて電気伝導を制御しなければならない。
CHEN氏の講演スライドによると、主に7種類の電気伝導メカニズムが抵抗変化メモリには利用されている。電気伝導を実現する各原理の詳細について同氏は説明しなかった。ここでは筆者が少し説明を加えることで、読者の理解の一助としたい。
講演スライドは電気伝導の主な原理と各原理の特徴を一覧表にまとめていた。左から、「オーミック(Ohmic)伝導」「空間電荷制限電流(SCLC:Space Charge Limited Current)」「プール・フレンケル(Poole Frenkel)伝導」「ショットキー放出(Shottky emission)」「トラップ・アシスト・トンネリング(Trap-assistant tunneling)」「量子ポイントコンタクト(Quantum point contact)」「ファウラー・ノルドハイムトンネリング(FN tunneling:Fowler-Nordheim tunneling)あるいは直接トンネリング(Direct tunneling)」である。
講演スライドの上から2番目の項目は電流の大きさを示す。左端に位置する原理が電流が最も高く、右に移動するにつれて電流が低くなっていく。
講演スライドの上から3番めの項目は、面積依存性である。「Y(Yes)」は依存性があることを示す。この場合、電気伝導経路の断面積が大きいと、電流も大きくなる。
上から4番目の項目は、温度依存性である。上から5番目の項目は、電界(電圧「V」)依存性である。最も下の項目である「過渡応答(Transient)」は、応答速度を示す。
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