それでは、電気伝導の制御原理を講演スライドの左端から、簡単に見て行こう。
「オーミック伝導」は導体で、ごく普通に見られる電気伝導である。いわゆる「オームの法則」(抵抗値と電流値の積が電圧値になるという法則)に従う電気伝導であり、最も高速に反応し、最も大きな電流を得られる。
「空間電荷制限電流(SCLC)」は、記憶素子における電極層と抵抗層の界面付近で電荷の注入が高速であるために、界面付近の量子準位を常に満たす状態を維持すると起こる。界面付近の量子準位を満たした電荷によって逆電界が生じ、抵抗層を流れる電流の量が制限される。
「プール・フレンケル(Poole Frenkel)伝導」は、絶縁体で電気伝導を妨げるエネルギー障壁が電界によって低下するとともに、熱エネルギーが加わって電子が伝導帯に放出されて起こる。電界依存性と温度依存性の両方を有する電気伝導である。
「ショットキー放出(Shottky emission)」は、導体表面のエネルギー障壁が電界によって小さくなることで、熱電子放出が起きやすくなる現象を指す。当然ながら、温度依存性がある。
「トラップ・アシスト・トンネリング(Trap-assistant tunneling)」は、絶縁体あるいは半導体のバンドギャップ内部に存在する複数の捕獲(トラップ)準位を介してキャリアが共鳴トンネルする電気伝導である。熱エネルギーと無関係に発生する。
「量子ポイントコンタクト(Quantum point contact)」は、少し変わっている。電流経路の途中を電流方向とは垂直な方向で極めて細くくびれさせることで、量子効果によって離散的に電流を制御する。つまり、極小サイズのデジタル抵抗素子となる。
「ファウラー・ノルドハイムトンネリング(FN tunneling:Fowler-Nordheim tunneling)あるいは直接トンネリング(Direct tunneling)」は、薄い絶縁膜をトンネル効果によってキャリアが通過する電気伝導である。特にファウラー・ノルドハイムトンネリングは、薄い絶縁膜に極めて高い電界を加えることで、実効的にエネルギー障壁を下げてトンネル効果を起こす。
これらの電気伝導は、高抵抗状態と低抵抗状態を安定的に作り出すために使われる。ただし、2つの状態を作る原理が同じとは限らない。留意しておくべきだろう。
(次回に続く)
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